全 情 報

ID番号 03817
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 全国給食組合連合会事件
争点
事案概要  全国の給食センターを会員とする連合会の事務局で経理を担当する職員が、経理元帳の作成等が遅れがちである等、勤務成績不良を理由として解雇された事例。
参照法条 労働基準法20条
民法627条1項
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
裁判年月日 1989年2月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和63年 (ヨ) 2245 
裁判結果 却下(確定)
出典 時報1304号143頁/労経速報1351号29頁
審級関係
評釈論文 酒井正史・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕402~403頁1990年10月
判決理由 〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 経理担当の職員にとって、会計帳簿への記帳及び試算表の作成は最も基本的な職務であって、債務者の経済状態を正確に把握するためには、それが正確かつ遅滞なく記帳されなければならないことはいうまでもない。しかるに、債権者は、その最も基本的な職務を遂行することができなかったのであって、右4及び5認定の事実からすると、これを遂行できなかったのは、債権者の体調その他の一時的な原因に基づくものではなく、その能力に由来するものと推認することができる。もっとも、債権者は、その担当とされた職務が、他の事務局職員に比べて過大であったため、記帳及び試算表の作成が遅れたものであって、債権者の能力等に起因するものではない旨主張する。しかし、前一4及び9認定の事実をも参酌すると、債権者の担当とされた職務の客観的な量及び質が、経理元帳の記帳及び試算表の作成の遅れをもたらすほどのものとは解せない。
 ところで、前一3認定のとおり、債務者の事務局職員は四名にすぎないから、そのうちの一名でも勤務成績の劣る者が存在する場合には、その補いをする他の職員の負担が増す割合は大きく、その職員の担当事務の停滞をもきたすことになるおそれもあるから、許容される勤務成績の悪さの程度はさほど大きくはないというべきである。
 しかるに、債権者は、前一7認定のとおり、自らの仕事の遅れを仕事が多いことのせいにして省みることなく、しかも、命ぜられた仕事を期限内にできないことを報告もしなかったのであるから(期限内にできない場合にはその旨を報告するよう命ぜられていたこと、期限内に試算表ができている必要性が大きいとA事務局長が考えていたことは、前一6認定のとおりである。)、その結果仕事の遅れに対応する措置を債務者が講ずる機会を失わせたことも十分に考えられるのである(なお、仮に、債権者の命ぜられた仕事の量が過大であったときは、その旨を上司に申し出て、債務者においてしかるべき手段を講ずることができる機会を与えるべきであって、命ぜられた仕事を期限内にできないことは自らの責任ではないとして、できないままにすることは適切な事務処理の方法でないことはいうまでもない。)。
 これからすると、債権者は就業規則三六条一号の「勤務成績不良にして就業に適しないとき」との解雇事由に該当するというべきである。そして、以上の事情のもとでは、債権者を解雇したことは解雇権の濫用とは認められない。