全 情 報

ID番号 03830
事件名 地位保全金員支払仮処分申請事件
いわゆる事件名 守谷商会事件
争点
事案概要  子会社の業務についての報告・禀議義務に違反し、部下の不正行為により会社に損害を与えたとしてなされた元子会社専務取締役(出向)に対する懲戒解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1989年3月6日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和63年 (ヨ) 3602 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例536号31頁/労経速報1355号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕
 1 被申請人における懲戒手続についてみるに、本件疎明資料及び争いのない事実によれば、就業規則第四二条には「懲戒は十分に調査をした上原則として賞罰委員会の意見具申により社長がこれを決裁する」と規定され、前記第四四条を受けて、賞罰規程第二二条及び第二三条には、
 「第二二条 処罰の対象となる事項があった場合、総務部長はその該当事項、程度、内容等を社長に提出するものとする。二社長は提出のあった件につき原則として賞罰委員会を編成し処罰の可否およびその具体的実行方法等の意見具申を受けるものとする。
 第二三条 個人処罰の審議にあたっては、処罰対象者を弁護するものを選定し、その意見を十分聴取すると共に、次の各号に掲げる事項を参考として審議するものとする。1会社に対する具体的影響 2処罰に該当するに至った経過、理由等(動機を含めて)およびその後にとった措置等 3過失のある場合はその程度 4過去における同種の処罰の状況 5本人の該当業務に対する知識、経験 6本人の日常の勤務状況 7本人の過去における功績 8本人の反省の程度 9その他参考にすべき事項」
と規定されていることが、一応、疎明される。
 2 申請人は、本件賞罰委員会の審議に際し、右規程に定められた申請人のための弁護者が選定されていない手続上の重大な違反があり、本件懲戒処分が無効である旨主張するところ、本件賞罰委員会の審議に際し、右弁護者の選定されていなかったことは当事者間に争いがない。
 ところで、右規程は、従業員の身分に重大な影響を与える懲戒処分に関し、従業員本人の意見、弁解のみならず、懲戒対象者を弁護すべき者の意見を具申する重要な機会を設けたものであり、これを欠くときは、賞罰委員会の決議はその手続きにつき重大な瑕疵があるものとして無効と解すべきである。
 しかしながら、前記認定の懲戒手続規定をみると、懲戒対象者のために弁護者選定を義務付た制度趣旨は、単に、賞罰委員会の審議にあたり形式的な弁護者の存在のみでよいとするものではなく、実質的に賞罰規程第二三条各号に定められているような事項について、懲戒対象者の有利になるような事実をも十分に調査し、弁護者の意見をも参考にして審議して、その結論を出すべきであり、仮に、弁護者が選定されていなかったとしても、実質的に弁護者の意見を十分聴取した場合と同様の結果が得られるような配慮がなされ、これを参考にして審議を遂げ、賞罰委員会としての結論を出すように定めたものと解するのが相当である。したがって、その制度趣旨からみて、形式的に弁護者の選任がなされていないとしても、実質的に制度趣旨に沿うような審議がなされていれば、その要件を充足しているものというべきである。
 (中略)
 (二) 右事実によれば、被申請人は、本件不正事件に関する申請人の行為につき、事件発覚直後に申請人から事実に関する陳述書を提出させたのみで、懲戒に関し、その意見陳述をさせていないため、本件賞罰委員会にその意見が資料として参考に供されていないのみならず、前認定のような本件不正事件に関する取引の背景的事実、A会社と被申請人との取引に関するこれまでの取引慣行等申請人の弁解を弁護し得る弁護者を選定しその意見を十分聴取すべきであったのにこれを行わなかったし、本件賞罰委員会において、B課長が申請人とCとの関係について、申請人の言い分を伝えたことがあっても、前認定のとおり、同課長が被申請人側の本件不正事件調査団の中心的立場にあり、前認定のような言動からすると、到底、申請人の弁護者としての役割を果たしたということもできない。
 4 以上説示して来たところによれば、本件賞罰委員会の審議にあたり、形式的にも実質的にも賞罰規程に定める弁護者の選任を怠った瑕疵があるというべきであり、しかも、その瑕疵は重大である。したがって、審議手続にこのような重大な瑕疵のある賞罰委員会の決議は無効であり、このような無効な決議に基づく意見具申によってなされた本件解雇には重大な手続違反があり無効と解すべきことになる。