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ID番号 03908
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 日産自動車家族手当請求事件
争点
事案概要  共働きの女子従業員が被告会社の家族手当支給規程のもとで家族手当の支給を拒否されたのは不当な女子差別であるとして、家族手当等を請求した事例。
参照法条 労働基準法4条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金
裁判年月日 1989年1月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 11430 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集40巻1号1頁/時報1301号71頁/タイムズ694号114頁/労働判例533号45頁/労経速報1346号3頁/新聞912号6頁
審級関係
評釈論文 Rogers,Jenifer S.・ジュリスト945号131~133頁1989年11月15日/奥山明良・月刊法学教室105号90~91頁1989年6月/山川隆一・季刊労働法153号115~120頁1989年10月/松田保彦・判例評論367〔判例時報1315〕221~225頁1989年9月1日/新谷眞人・季刊労働法152号154~155頁1989年7月/浅倉むつ子・平成元年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊957〕200~202頁1990年6月/納谷肇・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735
判決理由 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕
 憲法一四条は法の下における平等の基本的原理を定め、これを受けた労働基準法三条及び四条の規定の下においては、同一の労働について性別を理由として賃金の差別を行うことが許されないことは明らかである。したがって、就業規則をはじめ賃金等にかかる諸規程を作成するに当たっても男女平等を旨とすべきことはいうまでもない。しかして、被告会社が本件規程第二条において「家族手当は第三条に掲げる親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し支給する。ただし、独身の従業員が両親、兄弟姉妹を扶養する場合には必ずしも世帯主であることを要さない。」と定めていることは当事者間に争いがないところ、《証拠略》によれば、被告会社においては、従前より賃金規則において扶養家族一人につき均一の手当額を定め、これに扶養家族数を乗じて手当額を算出するという方式はとらず、別表(六)年度別家族手当支給額表記載のとおり扶養家族の数が増加するに従って扶養手当の総額を一定額まで増額するが、第二、三被扶養者に対する手当の額は第一被扶養者のそれより少額とする方式を採用していたため、仮に共働き夫婦に分割申請を認めると右方式によることが困難になり、夫又は妻のいずれか一人が従業員として働き他の一人が無職である場合に比べ扶養家族数が同一であっても、多額の家族手当を支給しなければならないことになって公平を欠く結果をもたらし、また支給事務も煩雑になるため、家族手当の支給対象者を夫又は妻のいずれか一人に絞る必要から、本件規程第二条のような規程としたものであることが明らかである。しかして、被告会社におけるような家族手当額決定方式を採る限り、共働き夫婦による分割申請を認めず支給対象者を一人に絞ることはやむを得ないものというべきである。
 (中略)
 家族手当の受給者を実質上の世帯主即ち一家の生計の主たる担い手とする被告会社の前記運用は、本件規程第二条本文の「家族手当は第三条に掲げる親族を実際に扶養している世帯主である従業員に対し支給する。」との文言に反するものではないし、また、本件家族手当が設けられた目的及びその法的性質即ち本件家族手当が扶養家族の員数によって算出されるなど、家族数の増加によって生ずる生計費等の不足を補うための生活補助費的性質が強い事実に鑑みると、家族手当を実質的意味の世帯主に支給する被告会社の運用は強ち不合理なものとはいい得ない。さらにまた右の基準を夫又は妻のいずれか収入の多い方に支給するとすることは、一家の生計の主たる担い手が何人であるかを判定する具体的運用としては明確かつ一義的であり、前記のように分割申請を認めないことに合理的理由がある以上、これまた必ずしも不合理なものとはいい難い。