全 情 報

ID番号 03917
事件名 措置要求に対する判定の取消請求事件
いわゆる事件名 愛知県人事委員会事件
争点
事案概要  公立高校教諭がクラブ活動に参加する生徒を引率指導するため休日勤務をした場合において、休日勤務手当請求権の有無が争われた事例。
参照法条 教育公務員特例法3条
教育公務員特例法7条
教育公務員特例法11条
地方公務員法46条
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
裁判年月日 1988年1月29日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 25 
裁判結果 棄却
出典 時報1286号45頁/タイムズ674号110頁/労働判例512号40頁/労経速報1321号12頁/判例地方自治45号21頁
審級関係
評釈論文 山本吉人・教育判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト118〕204~205頁1992年7月/野間賢・季刊労働法148号174~175頁1988年7月/和田肇・ジュリスト958号113~115頁1990年6月15日
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 しかるところ、国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与その他の勤務条件については、その特例を定めた給特法が、同じく地方公務員である教育職員の給与その他の勤務条件については地公法二四条六項、地教行法四二条、給特法八条及び一一条に基づき特例を定めた給特条例が存するところ(なお、原告は国立の義務教育諸学校等の教育職員ではなく公立のそれであるから、差し当たり給特法の適用は問題とならないので、以下特に必要のない限り給特条例を主に論ずることとする。)、給特法はその一〇条において、地方公務員である教育職員についても、労働基準法三三条三項の休日及び時間外の勤務を命ずることができるとしたうえ、それまでこれら職員に適用されていた労基法三七条の時間外、休日及び深夜勤務による割増賃金に関する規定の適用を排除し、給特条例三条も、「義務教育諸学校等の教育職員(但し、校長等一定以上の等級、号俸にあるものは除かれている。以下「教職員」という。)には、その者の給料月額の百分の四に相当する額の教職調整額を支給する。」(同条一項)、「教職調整額の支給に関し必要な事項は、人事委員会規則で定める。」(同二項)、「教職員については、給与条例十五条及び十八条の規定は、適用しない。」(同三項)旨を定めており、右給特法一〇条、給特条例三条の規定文言による限り、教職員が正規の勤務時間以外あるいは休日において、正規の勤務時間中に勤務を命ぜられて勤務した場合は、それがいかに長時間あるいは連日に亘るなど無定量、無制限に及んだとしても、時間外勤務手当あるいは休日勤務手当の支給は受けられないことになるように解されるところである。
 (三) しかしながら、一方において、給特法七条は、国立の教職員を正規の勤務時間を超えあるいは休日勤務手当が支給されるべき日に勤務させる場合については、「文部大臣が人事院と協議して定める場合に限るものとする。この場合においては、教職員の健康と福祉を害することにならないよう勤務の実情について充分な配慮がなされなければならない。」旨規定し、これを受けて、文部大臣は教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合に関する規程(昭和四六年七月五日文部省訓令第二十八号)を定めて後記給特条例七条と同一の規定を置き、また給特条例も、三条に続いて同七条において、「正規の勤務時間の割振りを適正に行い原則として時間外勤務(正規の勤務時間をこえる勤務をいい、勤務時間条例第八条第三項に規定する日における正規の勤務時間中の勤務を含むものとする。)は、命じないもの」とし(同条一項)、「教職員に対する時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合で臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限るものとする。」(同二項)旨を定め、命ずることのできる業務として「生徒の実習に関する業務、学校行事に関する業務、教職員会議に関する業務、非常災害等やむを得ない場合に必要な業務」の四業務を具体的に特定して掲げ、時間外勤務(なお、ここでいう時間外勤務とは右一項カッコ書きの文言等から休日勤務を含むと解される。以下同じ。)を命ずることに対して一定の制約を課しているところであることからすると、右給特法、給特条例七条に反して無定量、無制限に時間外勤務が命ぜられるようなことは、もともと給特条例の予定しないところであるから、仮に、右条項所定の要件を充たしていないのに時間外勤務命令が発せられた場合、それは同条に違反する違法なものと解さざるを得ない。とすれば、このような違法な命令が発せられ、教職員において現実に時間外勤務に従事した場合、当該命令を無効とみるのかそれとも瑕疵はあるけれども有効とみるべきかはともかくとして、当該命令に従って現実に労働に従事した教職員が給与(賃金)その他当該労働に対する対価として何らかの請求権を取得するのか否かについては、前記給特法一〇条、給特条例三条の規定文言に拘らず更に検討を要するところといわねばならない。
 (中略)
 しかして、当裁判所は、給特条例七条に限定的に列挙された事項を超えて職務命令が発せられ、教職員が当該職務に従事した場合について、給特条例三条によって教職員の時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用が当然に排除されるということはできず、そのような時間外勤務等が命ぜられるに至った経緯、従事した職務の内容、勤務の実状等に照らして、それが当該教職員の自由意思を極めて強く拘束するような形態でなされ、しかもそのような勤務が常態化しているなど、かかる時間外勤務等の実状を放置することが同条例七条が時間外勤務等を命じ得る場合を限定列挙して制限を加えた趣旨にもとるような事情の認められる場合には、給特条例三条によっても時間外勤務手当等に関する給与条例の規定の適用は排除されないと解するものである。従って、かかる場合に発せられた命令に従って教職員が業務ないし職務に従事したときは、当該教職員が当該労働に対する対価として本来取得すべき給与請求権までは排除されず、このような場合に時間外勤務手当等の請求を受けた給与負担者は当該職務命令が法令に違反し無効であることを理由にその支払いを拒むことは信義公平の原則に照らし許されないものと解するのが相当である。