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ID番号 03918
事件名 転任処分取消請求事件
いわゆる事件名 愛知県教育委員会事件
争点
事案概要  地方公務員である小学校教諭の同一市内の学校への配転につきその効力が争われた事例。
参照法条 地方公務員法17条1項
地方公務員法49条
地方公務員法49条の2第2項
地方公務員法50条3項
労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠
裁判年月日 1988年2月1日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (行ウ) 8 
裁判結果 却下(確定)
出典 時報1316号140頁/タイムズ672号164頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕
 地公法は、前述のように転任処分それ自体は、たとえそれが本人の意に反するものであつても不利益な処分とはみていないのであるから、公立学校教員に対する同一市内の公立学校の教諭に補する旨の配置換において、身分、俸給等に異動を生じせしめるものでなく、客観的また実際的見地からみて勤務場所、勤務内容等においてなんらの不利益を伴うものでないような転任については、他に特段の事情の認められない限り転任処分の取消を求める法律上の利益を肯認することはできないものというべきである(最高裁判所昭和六一年一〇月二三日第一小法廷判決参照)。
 (中略)
 本件転任処分は、前記三の3の認定のとおり在任一年間という短期間の転任であり、岡崎市においては健康上の理由とか家庭の事情などの特殊な事情がある場合にしかこのような転任は行われていないというのであるから、これらに匹敵するような事情がないのに本件転任処分がなされたものとすれば、それは原告の勤務条件に関し異例の措置がとられたものと評価されるべきものである。また、これを教育的見地からみてもかかる短期間の転任は十分な教育効果を達成するという観点から阻害要因となりかねないものであり、かかる転任が本来教育をなすうえで決して好ましくないことは被告も自認するところである。すなわち、教育には計画性、継続性が必要であり、教育成果を上げるためにはある程度の時間的継続を要することは明らかであり、殊に、学校教育においては、前記三の3認定のとおり赴任した最初の一年間は当該学校を理解、把握するために必要な準備的期間というべきもので、教育の成果が現れるのは二ないし三年間を要するというのであるから、当該学校において教育成果を十分に上げるためには少なくとも二ないし三年間程度勤務することがより望ましいところである。被告が「昭和五三年定期教職員人事異動実施要領」において転任にあたり教職員構成の適正化を図るとしたうえ、考慮すべき事項の一つとして勤務年数を掲げているのはこの趣旨も包含しているものと解される。
 しかしながら、このようにある期間継続的に同一校に勤務することにより教育効果を高めようというのはあくまでも一つの教育理念であつて、これが教育そのものの本質的要請であるとか、普通教育の目的、すなわち、心身ともに未だ発展段階にあり十分な判断あるいは批判能力を備えていない児童に対して、民主社会の構成員として必要な資質を養い、基礎的知識、技能、徳性を備えさせること等(学校教育法一七条、一八条、三五条、三六条)を達成するための必須要件であるとまで言えないことは論をまたないところである。しかも、この理念は教師個人の次元のものではなく、これに児童生徒その保護者をも包摂した教育にかかわるもの全体における理念というべきものであることからして、これをもつて個々の教師が享受する利益であるとか権利といつた性質のものとは到底考えられない。このことは、岡崎市において少数ながら見られるという同意による一年転任をして、教師の側における権利や利益の放棄と観念するのが極めて不自然であることからもうかがわれる。
 また、学校教育法二八条六項で教師は児童の教育をつかさどるとされ、教育基本法一〇条一項では教育が不当な支配に服することなく行われるべきこととされているが、これらの規定が普通教育を担当する教師に対し、広く原告の主張するような教育権を付与保障したものとは解されないから、これに依拠して、教師が一年を超える期間にわたつて同一校に勤務する法律上の利益を有するとすることも相当でない。