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ID番号 03919
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東京電力塩山営業所事件
争点
事案概要  営業署長が女子従業員に共産党員かどうかを問い質し、かつ、共産党員でない旨を書面にして提出するように求めた行為につき使用者に対し損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
労働基準法3条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1988年2月5日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (オ) 415 
裁判結果 棄却
出典 労働判例512号12頁/労経速報1315号3頁
審級関係 控訴審/00256/東京高/昭59. 1.20/昭和56年(ネ)1786号
評釈論文 今野順夫・法学〔東北大学〕52巻6号113~117頁1989年2月/斎藤展夫・法と民主主義228号42~43頁1988年6月/新谷眞人・季刊労働法148号176~177頁1988年7月/森英樹・法学セミナー33巻5号130頁1988年5月/西原博史・憲法判例百選〔1〕<第3版>〔別冊ジュリスト130〕78~79頁1994年9月/西原博史・憲法判例百選〔1〕<第4版>〔別冊ジュリスト154〕82~83頁2000年9月/瀧川円珠・最高裁労働判例〔9〕―問題点とその解説283~313頁1989年11月/島田陽一
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 二 右事実関係によれば、亡Aが本件話合いをするに至った動機、目的は、本件営業所の公開されるべきでないとされていた情報が外部に漏れ、共産党の機関紙「赤旗」紙上に報道されたことから、当時、本件営業所の所長であった亡Aが、その取材源ではないかと疑われていた上告人から事情を聴取することにあり、本件話合いは企業秘密の漏えいという企業秩序違反行為の調査をするために行われたことが明らかであるから、亡Aが本件話合いを持つに至ったことの必要性、合理性は、これを肯認することができる。右事実関係によれば、亡Aは、本件話合いの比較的冒頭の段階で、上告人に対し本件質問をしたのであるが、右調査目的との関連性を明らかにしないで、上告人に対して共産党員であるか否かを尋ねたことは、調査の方法として、その相当性に欠ける面があるものの、前記赤旗の記事の取材源ではないかと疑われていた上告人に対し、共産党との係わりの有無を尋ねることには、その必要性、合理性を肯認することができないわけではなく、また、本件質問の態様は、返答を強要するものではなかったというのであるから、本件質問は、社会的に許容し得る限界を超えて上告人の精神的自由を侵害した違法行為であるとはいえない。さらに、前記事実関係によれば、本件話合いの中で、上告人が本件質問に対し共産党員ではない旨の返答をしたところ、亡Aは上告人に対し本件書面交付の要求を繰り返したというのであるが、企業内においても労働者の思想、信条等の精神的自由は十分尊重されるべきであることにかんがみると、亡Aが、本件書面交付の要求と右調査目的との関連性を明らかにしないで、右要求を繰り返したことは、このような調査に当たる者として慎重な配慮を欠いたものというべきであり、調査方法として不相当な面があるといわざるを得ない。しかしながら、前記事実関係によれば、本件書面交付の要求は、上告人が共産党員ではない旨の返答をしたことから、亡Aがその旨を書面にするように説得するに至ったものであり、右要求は、強要にわたるものではなく、また、本件話合いの中で、亡Aが、上告人に対し、上告人が本件書面交付の要求を拒否することによって不利益な取扱いを受ける虞のあることを示唆したり、右要求に応じることによって有利な取扱いを受け得る旨の発言をした事実はなく、さらに、上告人は右要求を拒否した、というのであって、右事実関係に照らすと、亡Aがした本件書面交付の要求は、社会的に許容し得る限界を超えて上告人の精神的自由を侵害した違法行為であるということはできない。
 したがって、右確定事実の下において、上告人につき所論の不法行為に基づく損害賠償請求権が認められないとした原審の判断は、これを正当として是認することができる。