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ID番号 03949
事件名 休業補償差額金請求控訴、同附帯控訴事件
いわゆる事件名 ネッスル事件
争点
事案概要  非組合員として機密の職務に従事し一般従業員よりも高い給与を受けてきた者が組合に加入した場合における賃金が争われた事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生
裁判年月日 1988年3月28日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (ネ) 1629 
昭和61年 (ネ) 2439 
裁判結果 一部変更,一部取下(上告)
出典 タイムズ676号85頁
審級関係 一審/神戸地/昭60. 8. 8/昭和56年(ワ)377号
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生〕
 これらの事跡に照らせば、労働契約当事者の意思解釈上、被控訴人の基本給を定める労働契約の内容はAの身分放棄によつて影響を受けることなく、基本給はそのまま据え置かれているものと認めるべきである。
 もつとも、被控訴人の基本給は被控訴人と同年齢・同一勤務年数の一般女子従業員の基本給をはるかに上回るものであつたのであるから、組合と控訴人との間に締結されている労働協約との関連において、右基本給を定める労働契約の効力が問題となる余地があるが、右労働契約は被控訴人が非組合員たるA在任中に締結したものであつて、その後組合に加入したことにより協約の基準と牴触するに至つたものであるばかりでなく、組合自ら被控訴人のその基本給を承認し、むしろこれを支援しているわけであつて、組合の統制と団結に全く影響を与えないことが認められるから、被控訴人と控訴人間の労働契約中基本給の額を定めた部分は被控訴人の組合加入によりその効力を失うものではないと解するのが相当である。
 そうすると、被控訴人の基本給の額は、被控訴人の組合加入によつて変更を受けないが、爾後の昇給は、一般従業員の賃金体系に則り、一般従業員の昇給と全く同様に遇せられることになることは明らかである。そうすれば、被控訴人の基本給に関し、その後組合ないし被控訴人と控訴人との間に特別の合意が成立すれば格別、そうでないかぎりは、被控訴人の基本給は毎年労使の間で締結される賃金協定によつて律せられ、右賃金協定のみによつて昇給が可能となるといわなければならない。右賃金協定はいうまでもなく労働協約であるが、前記の解釈上、被控訴人の基本給が協約による一般従業員の基準を上まわる間はその額に変動がなく、協約による基準が逐次上昇して被控訴人の基本給を超えるに至つた場合、その基準まで基本給が改定されることになると解するのが相当である。