全 情 報

ID番号 03962
事件名 処分取消等請求事件
いわゆる事件名 東京都文京区立汐見小学校教諭事件
争点
事案概要  病気により欠勤を続けていた小学校の教諭が校長の説得により退職願を提出したあと右退職願の提出は脅迫によるものであるとしてB小学校教諭たる地位の確認を請求した事例。
参照法条 労働基準法2章
民法96条
体系項目 退職 / 退職願 / 退職願と強迫
裁判年月日 1988年5月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 12 
裁判結果 一部棄却,一部却下
出典 労働判例517号15頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-退職願-退職願と強迫〕
 原告は、昭和五五年一一月一二日から休暇ないし欠勤を続け、同月一八日Aで精神分裂病の疑いにより六箇月間の休養加療を要するとの診断を受けていたが、昭和五六年三月四日にも同病院で神経衰弱状態により三箇月間の休養加療を要するとの診断を受けたため、同月一六日付けで休職期間を同年六月一五日までとする本件休職処分に付され、以後も病状が改善しないため、引き続き八回にわたり休職期間が更新されてきたところ、その期間が通算三年(東京都人事委員会規則一一号により、休職期間の更新ができるのは、休職処分の日から引き続き三年を超えない範囲内とされている。)となるに臨み、東京都教育委員会が昭和五九年一月三〇日開催の東京都公立学校教職員健康審査会に諮問して、原告は精神分裂病により、勤務を休み、医師による医療行為を受ける必要のある状態にあるとの答申を得たため、B小校長Cから原告に退職の説得がなされていたが、昭和五九年二月二一日、同校校長室において、右Cが「休職も三年経過することになる。東京都公立学校教職員健康審査会の審査結果でも病気は未だ治癒していないということなので、復職は無理だろう。退職しなければ、分限処分になるだろう。」との旨を述べて退職を説得したのに対し、原告は、当初は退職を渋り、復職の希望を述べていたものの、分限処分に付されると履歴に傷がついて将来不利益が生じ、また、強制的に入院させられることにもなるかもしれないと考えて、結局、同所に備付けの退職願の用紙に自ら退職理由、退職の日付等の必要な事項を記入したうえで署名押印して同校長に提出したこと、なお、右原告とCとの話合いは約四〇分程で、双方とも声を荒げるようなこともなく、終始穏やかに行われたことが認められ、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右認定事実によれば、原告は前記昭和五九年二月二一日のB小校長室におけるCの説得によって退職を決意したものということができるが、右原告に対するCの説得は、いかなる点から見ても脅迫にあたるものとはいい難いから、原告の退職の意思表示が脅迫によるものとすることはできない。
 したがって、原告の被告東京都文京区に対するB小教諭たる地位の確認請求は理由がないものといわなければならない。