全 情 報

ID番号 04027
事件名 賃金仮払仮処分申請事件
いわゆる事件名 大阪施設工業事件
争点
事案概要  軌道整備工事会社に作業員として登録し、日々の就労要請にもとづき就労していた場合につき、就労要請がなかった日の賃金請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法24条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 仕事の不賦与と賃金
裁判年月日 1988年10月7日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和62年 (ヨ) 4466 
裁判結果 却下
出典 労働判例528号35頁/労経速報1342号18頁
審級関係
評釈論文 和田肇・ジュリスト968号129~130頁1990年12月1日
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
 右に認定した諸事実、殊に、作業員制度は、業務量の変動が大きく、日々の作業量が異なるという保線業務に必然的に伴う特殊性に対応するため、右特殊性にあわせて被申請人が採用した雇用形態であること、作業員採用手続及び採用後の作業員の待遇は、賃金、人事、休職、解雇、教育訓練、定年制等の各面において、期間の定めのない継続的労働契約関係にある職員のそれとの間には顕著な差異がみられること、申請人らを含む作業員の就労の頻度には各人ごとに大きなばらつきがあり、同一人でも時期ごと変動があるという実際の勤務の状況及び被申請人が作業員の不就労をもって不利益な取り扱いをしたことがないこと、右の事態は被申請人の労務管理の不備というよりも作業員が被申請人からの個々の就労要請につきいわば諾否の自由を有していることの反映であると考えられること、一日採用になれば作業員は被申請人において登録され、被申請人からほぼ連続的に明示又は黙示の就労要請を受けることになること、作業員の勤務年数は概ね長期にわたり、申請人らをみても短い者でも約一二年という長きにわたっていること、申請人らのうち軌道工事管理者等の資格を有している者には右資格を行使して就労した回数とは無関係に月々一定の資格手当が支給されていること等の諸事実を総合すれば、申請人、被申請人間には、申請人らの採用申し込み、これを受けての被申請人による採用する旨の告知、作業員としての登録という合意によって、両者間に、被申請人は、受注した軌道保守工事については、作業規模、内容等からみて、登録した作業員(申請人らを含む。)に、同工事の作業をさせることが相当でないと認められる合理的事由のある場合を除き、原則として、申請人らに対し、登録した他の作業員と公平に、当該作業への就労要請をなすべき義務が発生し、他方、申請人らは、右就労要請について諾否の自由を有するという、労働契約関係が設定され、その後、被申請人による個別の就労依頼とそれに対する申請人らの応諾によって、それに従って個別的、具体的な就労義務と就労に対する賃金請求権の有無が定まるという、いわば特殊な期間の定めのない労働契約(以下、「本件労働契約」という。)が締結されたものと解するのが相当である(被申請人の右就労要請義務が契約上の義務である以上、その違反事実が発生すれば、一般原則に従って、義務違反に伴う責任追及のなされることはいうまでもない。)。
 (中略)
 申請人らの賃金請求権は、被申請人の個別の就労依頼とそれに対する各申請人の承諾があって初めて具体的な就労義務が発生しこれに基づいて現実に就労した場合にはじめて発生するものであると解する以上、現実に被申請人からの就労依頼がないときは、就労義務が発生せず、就労義務に応じた賃金請求権は発生しないものといわざるをえないのであるから、この点からも、申請人らは別紙就労拒否日一覧表記載の日に対応する賃金請求権を有していないものというべく、賃金仮払いの申請は、その余について判断するまでもなく、被保全権利を欠くものといわなければならない。