全 情 報

ID番号 04064
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 在沖縄米軍基地事件
争点
事案概要  米軍基地の警備員に対する階級章の不着用を理由とする就労拒否が民法五三六条二項に該当するとして、賃金の支払い請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法24条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 仕事の不賦与と賃金
裁判年月日 1988年12月15日
裁判所名 那覇地沖縄支
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ワ) 12 
昭和58年 (ワ) 63 
昭和59年 (ワ) 131 
昭和59年 (ワ) 267 
昭和59年 (ワ) 283 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 訟務月報35巻6号962頁/労働判例532号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
 復帰後において原告らに階級章及び肩章の着用を強制しうる根拠がなかったことは先に検討したとおりであり、前示(二)及び(三)のとおり、軍警労が復帰前から階級章及び肩章の廃止を主要な運動方針とし、このことは、在沖米軍の担当者も聞知していたこと、また、前示(二)及び(一四)のとおり、本件就労拒否が開始された後のことであるとはいえ、原告らの労務管理に関する事務を所管していた沖縄県の労働商工部長やその上司である副知事などが、原告らに階級章や肩章を強制すべき根拠はなく、本件就労拒否は違法であるとの見解を表明していたことからすれば、在沖米軍としては本件就労拒否に踏み切る前に、原告らの主張にも謙虚に耳を傾け、復帰後における階級章及び肩章着用義務の根拠について慎重に検討すべきであったというべきである。それにもかかわらず、原告らが階級章及び肩章を着用しないという実力行使に及ぶまで在沖米軍はこれらについて具体的な改革の動きを示さず、また、着用義務の根拠についての具体的かつ十分な説明も行わないまま(このことは、前示(六)及び(一三)のとおり、A大佐が二回にわたって発した階級章及び肩章の着用を命じる文書にも、階級章及び肩章の着用の根拠についての具体的な説明がなかったこと及び原告X1、同X2(第一回)、同X3各本人尋問の結果を総合して認められる。)、本件就労拒否に踏み切り、これを継続したうえ、その間一貫して原告らが階級章及び肩章を着用しない限り就労させないという態度に固執していたものということができる。してみれば、在沖米軍は、十分な検討もなしに復帰後も階級章及び肩章の着用を強制することができるものと誤信し、原告らの主張に対して真摯に対応することを怠った過失により、本件就労拒否に踏み切り、これを継続したものであるから、本件就労拒否は在沖米軍の責に帰すべき事由に基づくものというべきである。
 もっとも、現在の時点からふり返ると、復帰後幾日も経ない内から階級章及び肩章の廃止を要求して実力行使に走った原告らの対応もいささか短兵急とも見えなくはなく、特に、前示(三)のとおり、昭和四七年六月二〇日に在沖米軍が、従前の階級章及び肩章の廃止を約束してそれまでの暫定的措置としてこれらを着用するという譲歩を示したのに対して、これを拒否して席を立った点は非妥協的に過ぎたのではないかという感もないではない。しかし、もともと復帰後においては原告らに階級章及び肩章の着用を命じうる根拠はなくなっていたのであり、しかも、前示(六)のとおり、階級章及び肩章の不着用者が相当数に及び非組合員にも一部同調者が出るなど、軍警労の主張は、それなりに警備員らの支持を集めたものであったことに加えて、復帰当時の沖縄の物情騒然たる状況と米軍の長期間にわたる占領状態に起因する原告らを含む沖縄県民の米軍に対する反発的な感情(これらの事実は、<証拠略>及び弁論の全趣旨によって認めることができ、また被告も自認するところである。)という当時の特殊な状況をも考慮すると、在沖米軍としては、やはり原告らの階級章及び肩章に対する問題意識と反感の深さを謙虚に受け止めて、本件就労拒否を行う前に慎重に考慮すべきであったというべきであるから、原告らの態度にも問題がなかったとはいえないとしても、このことから、本件就労拒否について在沖米軍に帰責事由がなかったということはできない。
 してみれば、本件就労拒否は、在沖米軍の責に帰すべき事由に基づくものというべきであり、先に述べたとおり、これは被告自身に帰責事由がある場合と同視されるべきである。