全 情 報

ID番号 04099
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 パン・アメリカン航空事件
争点
事案概要  搭乗手続業務に従事する航空会社社員に対する、手荷物超過料金の受領ミスを理由とする解雇につき、権利濫用にあたるとして無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 勤務成績不良・勤務態度
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1985年3月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和59年 (ヨ) 2356 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例451号33頁/労経速報1231号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-解雇事由-勤務成績不良・勤務態度〕
 以上の事実が認められる。右事実によれば、申請人は管理職員の許可を受けることなく、自己の判断で、A社一行の荷物全部を無料とする取扱いをしたこと、A社一行八名の荷物は実際には全部で八二個あったから、料金を支払う必要のある超過荷物は六六個であったこと、しかし、申請人は、A社のB社長から、当日の荷物は全部で三〇個を少し上まわるくらいである旨を事前に聞いていたので、当日のA社一行の搭乗手続を担当した際も、荷物は全部で三〇個を少し上まわるくらいであり、したがって超過荷物は三〇個を少し上まわる数から本来無料である一六個を差し引いた一四個を少し上まわるくらいの数と思い込んでいたこと、申請人は、搭乗手続の際、自らA社一行の荷物の個数を確認せず、また、荷札付け作業担当の空港サービス員からその数を聞くなどして確認することもしなかったため、荷物が航空機に積み込まれる直前に電話で問い合わせを受けるまで荷物が八二個あることを知らなかったこと、申請人がA社一行の三〇個を少し上まわるくらいの荷物を自己の判断で無料としたのは、A社がかねてから被申請人会社をしばしば利用している得意客であり、今後も継続して利用してもらうためには、サービスとして優待措置をとる必要があり、しかも、今回の荷物はファッションショーに使う衣類等が主であるから、個数が多い割に重量はかさまないであろうと判断したからであり、他に特別の意図はなかったこと、申請人は、航空機の出発直前にA社一行の荷物が全部で八二個あることを電話で知らされたので、直ちに、A社の社員に、八二個ならば無料にするわけにはいかないので、規定どおりの料金を支払ってほしい旨を伝え、了解を得たこと、その結果、荷物はひとまず航空機に積み込まれ、到着地で超過荷物六六個分の料金が支払われたこと、申請人は、A社一行の荷物の個数が当初の予定より大幅に多かったので、念のため、翌日の朝、A社の役員から超過料金支払の約束を取り付けたことなどが認められる。したがって、申請人が、管理職員の許可を得ることなく、自分独自の判断でA社一行の荷物全部を無料とする取扱いをしたこと、及び前記認定事実3記載のような事情があったとはいえ、搭乗手続に際し、荷物の個数を確認せず、また、空港サービス員に荷札を渡す際及び使用後に荷札の返還を受ける際に、その枚数を確認しなかったことは、被申請人会社の指示に違反しており、その限りで申請人にも責められるべき点はあるが、申請人がA社一行の荷物全部を無料とする取扱いをするに至った動機及び経緯、荷物の個数が三〇個くらいではなく八二個であることを知った後の申請人の言動並びに被申請人会社に損害が生じなかったこと等前記認定の諸般の事情を考慮すれば、申請人の行為が被申請人会社の就業規則二三条Aの「不正直な行為のあったとき」又は「会社の利益に相反する行為のあったとき」に該当し、しかもその情状が重大であるとはいえないものというべきである。なお、被申請人は、本件手荷物の搬入は、申請人が乗客関係者に対し連絡をとり、あらかじめ搬入した手荷物はすべて無料で受け付ける旨の了解を与えていたものであり、しかも、申請人は荷物が八〇個くらいであることを事前に知っていた旨主張し、被申請人の提出した、C作成の「シューター作業経過報告」と題する書面(〈証拠略〉)及びニューヨーク旅客部長D発信の電文(〈証拠略〉)には、一部被申請人主張のような事実をうかがわせる部分もあるけれども、これらの疎明資料は本件の他の疎明資料と対比して採用することができず、他に被申請人主張の事実を認めるに足りる疎明はない。
 そうすると、申請人の行為が被申請人会社の就業規則二三条A所定の懲戒事由に形式的には該当するとしても、その情状が重大であるとはいえず、申請人を懲戒解雇することは著しく妥当性を欠くものであるから、本件解雇は権利の濫用として無効というべきである。