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ID番号 04141
事件名 配転命令停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 サン書店事件
争点
事案概要  大阪府枚方市から、東京都西荻窪への配転命令拒否を理由とする諭旨解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項9号
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反
裁判年月日 1985年12月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 昭和60年 (ヨ) 3431 
裁判結果 認容
出典 労働判例468号53頁/労経速報1249号19頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕
 前記認定事実によれば、被申請人は、A解雇問題を契機に結成されたY会社労組に対し、その結成時から嫌悪感を抱き、特に同組合三役に就任したBや申請人らが被申請人のC社長の十数年来の友人や社内における側近的立場にあったにもかかわらず、A問題のほかにも、時間外労働手当支給、配転撤回闘争、その他労働条件をめぐる諸問題で会社と対立的立場に立ち、Y会社労組の組合活動の中心的な役割を担っていたことから、同人らに対する嫌悪感を強めていたということができ、Y会社労組組合員に対して昭和五九年八月以降なされた一連の降格人事、配転、懲戒処分等をみると、比較的軽微な違反や事柄を理由に不当に重い処分や降格人事をし、あるいは業務上の必要性に疑問の持たれる配転がなされていること、他方Y会社労組結成後一年を経ずして結成されたY会社ユニオンの結成及びその後の活動に被申請人が助力していたことが窺われ、被申請人と協調的立場に立つ同組合の組合員に対してなされた配転人事その他の処遇は、Y会社労組組合員に比して優遇されていること、被申請人としては、遅くとも昭和六〇年四月の時点で申請人の退職を望んでいたこと、本件配転命令に先き立ち、Y会社労組前委員長のBを西荻窪に配転するとともに、前副委員長の申請人に対しては富山三号店への配転を予定していたこと(なお、申請人を西荻窪店に配転する業務上の必要性について疑問があることは後記説示のとおりである。)などの諸事情を勘案すると、被申請人による本件配転命令は、申請人のY会社労組における影響力を弱め、さらにはその退職を意図してなされたものと推認することができ、申請人の前記組合の結成、正当な組合活動に対してなされた不利益な取扱いにあたり、不当労働行為と解するのが相当である。3 また、申請人を西荻窪店に配転する業務上の必要性について検討する。
 被申請人が昭和六〇年四月一〇日付で「Y会社関東進出・東京仕入事務所計画について」と題する中期計画を策定したことは前示のとおりであるが、西荻窪店は開店以来売上成績が不振で、被申請人の再建努力にもかかわらず売上の改善がみられなかったことから、昭和五九年二月ころには売却処分の方針となり、現に売却の話しもあった店舗であること、被申請人は、関東進出について強調するが、疎明資料によれば、昭和六〇年五月二九日、被申請人にとって、年一回管理職等に経営方針や重要な政策を発表する重要な会議である全国店長会議が開催されたが、その席上、西荻窪店の再建、関東進出にあたっての店舗開発準備など右策定にかかる中期計画に関する事項について、何ら議論されていないこと、また右計画の策定当時社内において十分論議された形跡が窺えないことが一応認められ、さらに申請人に替って西荻窪店に配転されたDは入社一年余りのもので、不振店の再建や店舗開発の仕事の経験を有しない者であること等の事情に照すと、被申請人に右計画を真に実行する意思があったか疑問がもたれるところであり、申請人を西荻窪店に配転しなければならない業務上の必要性があったとは認め難い。
 また、不振店対策として申請人を配転する業務上の必要性が仮に認められるとしても、前記認定のとおり、申請人には東京勤務には応じ難い家庭の事情が認められ、申請人から右事情の説明を受けながら、これを考慮することなく申請人に対し本件配転を命じたことは、申請人に著しい不利益をもたらすものであって、人事権の濫用にあたるというべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕
 以上説示のとおり、本件配転命令は、不当労働行為にあたり無効というべきであり、また人事権の濫用としても無効というべきであるから、本件配転命令に従わなかったことを理由としてなされた本件解雇の意思表示もまた無効である。