全 情 報

ID番号 04150
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 日の丸総業・日の丸自動車教習所事件
争点
事案概要  自動車教習所における卒業生対象のアンケート結果において教え方が不評であることを理由とする解雇が有効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
裁判年月日 1984年10月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和59年 (ヨ) 2280 
裁判結果 却下
出典 労経速報1206号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
 Y自動車教習所が公安委員会の指定を受けた教習所であり、その指導員の職務が公共性を有することは、当事者間に争いがないところ、これらに照らすと、債務者会社の指導員には、教習生に迎合したり、その機嫌をとることよりも、毅然とした態度で教習に臨み、教習生の運転技術の向上に努めることが要求されているのであり、債務者会社もまた、右のような範囲内において、営利性のみを追求することは許されないと解される。右のような指導員の職務の性質のほか、その教習内容が、車両の運転という危険を伴うものであり、しかも刻々と変化する状況に対して機敏な対応を要するものであることに照らすと、指導員は、その教習指導に際して、教習生に対し、ある程度厳しい言葉遣いをすることも許されるのである。しかしながら、それは、あくまでも教習に対する熱意の現われとしてのみ許されることであって、そのことが教習生にも理解されるものでなければならない。もちろん、教習生の中には指導員の意図を曲解する者もいると思われるが、指導員が教習生のために熱意をもって指導しているにもかかわらず、多くの教習生からその意図を理解されない場合は、その指導方法が適切でないといわざるを得ない。また、教習に対する熱意のあまり教習生に暴行を加えることが許されないのはいうまでもないし、そのような誤解を避けるためにも、教習生の体に手を触れることは厳に慎しまなければならず、特に四輪普通車の教習においては、指導員と教習生とが一対一で車内という、いわば密室内において、教習指導が行われるのであるから、教習生が女性である場合には、男性の指導員は、言動に十分注意し、誤解の生じないようにすべきである。そして、右のような意味で指導方法が適切でなく、また多くの教習生から誤解を受ける言動をする者は、その内心の意図が教習に対する熱意にあるか否かを問わず、指導員としての適格性に疑問があり、その程度が営利企業としての債務者会社の経営に影響を及ぼすに至るときは、債務者会社は、当該指導員を「社業に適さない」として解雇することも許されると解される。
 以上のような観点から、前記二で認定した諸事実をみると、第1項の事実については債権者に特に非難すべき点は見当らないものの、第2項ないし第5項記載の各事実は、いずれも右のような意味で債権者の指導員としての適格性を疑わせるものであり、特に第3項及び第5項記載の事実は、その行為態様に照らすと、債務者会社の信用及び評価を下げ、その営業上の損失を招くおそれが大きく(当該教習生が債権者について厳しい処分を望んでいないとしてもこのことに変りはない)、債務者会社の経営に影響を及ぼしかねないものであって、債権者は、それ以前に第2項及び第4項記載のとおり、指導方法に問題があるなどとして処分ないし注意を受けていたにもかかわらず、右のような行為をしたこと、及び本件審尋手続においても、たとえ右のような行為をしても解雇事由には当らないとしていることに照らすと、債権者には今後の改善の見込みも少ないというべきであるから、債務者会社が債権者について「社業に適さない」と判断したことは正当であって、解雇権の濫用を窺わせる事情は見当らない(なお、(書証略)によると、本件解雇後の調査によって、昭和五七年三月から昭和五九年一月までの間にY自動車教習所において自動二輪教習を中途で断念した教習生二二五名のうち、債権者の教習指導を受けた直後に断念した者は三八名にのぼり、他の指導員についての平均一一・七名を大きく上回り、他にそのような指導員はいないことが一応認められ、このことも右判断の正当性を、事後的にではあるが、裏付けるものである)。