全 情 報

ID番号 04189
事件名 旅費請求事件
いわゆる事件名 高知県立高校事件
争点
事案概要  公務員の旅費請求権につき、予算の点を考慮して旅行命令の発令に際しこれを放棄できるとされた事例。
参照法条 労働基準法24条
地方自治法204条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金債権の放棄
裁判年月日 1970年6月11日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和42年 (行ウ) 5 
裁判結果 認容
出典 行裁例集21巻6号921頁
審級関係
評釈論文 小野寺邦男・教育委員会月報243号49頁
判決理由 〔賃金-賃金の支払い原則-賃金債権の放棄〕
 個人または団体が優越的な意思の主体としての国家、公共団体に対して有するいわゆる個人的公権は、単に個人的利益のためにのみ与えられているものでなく、これを個人に享有せしめることが国家または社会公共のためにも必要であることに基づき与えられているのであるから、一般にはこれを放棄することを得ないものといわなければならない。蓋し、これを放棄することができるとすればこのような個人的公権を認めた本来の目的を妨げ公益を害するおそれがあるからである。しかしながら、個人的公権に属するもののうちこれを享有する者の経済的利益を主たる眼目とするものについては、公益を害するおそれがないから、放棄することも可能であると解すべきである。そして、公務員の旅費請求権が公法上の勤務関係に基づき発生するところのいわゆる個人的公権であることはいうまでもない。地方公務員の旅費は、地方自治法第二〇四条の規定により地方公共団体が条例をもつてその支給額および支給方法を定めて支給すべきことが義務づけられており、被告高知県においても前示旅費条例を制定しその規定に準拠して旅費の支給がなされる建前であるが、このような法的措置が講ぜられているのも、公務のために旅行する公務員に対し旅行に要する費用を補填して公務の円滑な遂行に資することにあると考えられる。しかし、旅費の本質は公務員の公務による旅行中必要とされる費用に充てるため支給される費用であつて、いわゆる実費弁償の一種であるから、旅費請求権は個人的公権に属するものとはいえ当該公務員に経済的利益を享有せしめることを主眼としているものと解するのが相当であり、公務員の地位に基づきその職務に対する反対給付であると同時にその地位相当の生活を保障する資料として支給せられる給料等とはその性質を異にするものである。従つて、具体的に発生した旅費請求権はこれを放棄することも可能であると解すべきである。