全 情 報

ID番号 04252
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 石川島播磨重工業事件
争点
事案概要  試用期間中の労働者に対する経歴詐称、勤務成績不良を理由としてなされた解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質
解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1969年6月11日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ヨ) 795 
裁判結果 却下
出典 時報569号85頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-試用期間-法的性質〕
 本件における試用期間の性質と解雇権の関係について検討するに、《証拠略》によれば、被申請会社の就業規則第七条には「選考のうえ、適当と認めた者を従業員として採用する。ただし試用期間を三か月とする。2試用期間中、従業員として適当でないと認められたときは採用を取消す。3試用期間は勤続に通算する。」と定められていることが疏明される。右規定並に前記就業規則上試用期間満了後、改めて正規の従業員として本採用する手続に関する定めがないことに徴すれば、被申請会社が採用した従業員は、採用の日から三ケ月間の試用期間中に従業員として不適格と認定されて解雇されない限り、三ヶ月の経過とともに当然、自動的に正規の従業員となるものと解され、従って昭和四三年六月二〇日に申請人と被申請会社との間で締結された雇傭契約は、同日から三ヶ月の期間中に申請人が従業員として不適格であると認定されたときは被申請会社において申請人を解雇することができるという解約権が留保された期間の定めのない一個の契約であると考えられる。ただ、右の如き試用期間中といえども労働者は既に雇傭関係に入り込んでいるのであるから、使用者のなす解約権の行使の前提たる従業員としての適格性の認定は恣意的であることは許されず、試用期間制度の目的に適合する合理的な範囲に制約されるものと解すべきである。前記認定の「従業員として適当でないと認められたとき」と定められた被申請会社就業規則第七条第二項の規定についても、右の見地からその適用の当否を判断すべきものというべきである。
〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 労働契約は継続的労務供給関係たる性質上使用者と労働者との間の強度の相互的信頼関係に基礎付けられ、右信頼関係なくしては契約の維持はおろか契約の締結すらその実現を期しえないものであることはいうまでもない。そして、右信頼関係の中使用者の労働者に対する信頼は労働者の労働能力、技倆が使用者の求める一定水準に達しているといういわば技術的要素に限局されるものではなく、労働者の勤労意欲、性行、協調性等企業組織の構成員としての諸々の人格的要素にまで及ぶものとみるべく、既に労働者を雇傭するかどうかという契約当初の段階においても究極的には右の人格的要素に対する信頼形成の有無こそが契約の成否を決定するものなのである。従って、労働者が使用者の行う採用試験を受けるに当り使用者側から調査、判定の資料を求められた場合には、能う限り真実の事項を明らかにして信頼形成に誤りなからしめるよう留意すべきは当然であり、このことは労働契約を締結しようとする労働者に課せられた信義則上の義務であるといわなければならない。労働者が使用者から問われた経歴(最終学歴を含む。)について真実を記載しまたは申告することも叙上の観点から要請されるところである。それ故、試用期間中の従業員について経歴詐称の事実が発覚した場合において、使用者が当該労働者を従業員として不適格と認め解雇することは-詐称された事項が当該企業における当該職種の従業員の合理的採用基準に照らし重要でないとか、勤務成績が良好である等経歴詐称が使用者において右従業員との労働契約関係を維持することを著しく困難ならしめる程のものでないと認めるべき特段の事情がある場合は格別-正当として是認されるべきでありもとより試用期間制度の目的に適合する合理的範囲内の行為であるとすべきである。