全 情 報

ID番号 04292
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 米子作業事件
争点
事案概要  違法な組合活動を理由とする懲戒解雇につき、著しく苛酷にすぎ無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1968年4月25日
裁判所名 鳥取地米子支
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (ヨ) 3 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労働民例集19巻2号577頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・ジュリスト434号147頁
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 団体交渉その他の団体行動に関する所為であつても、違法で、かつ、職場秩序を乱したものについては懲戒の対象となりうると解され、本件解雇事由のうちこれに当たるものは昭和三八年四月一九日のピケの行過ぎ(解雇事由1)、同三九年五月一五日の団交要求の行過ぎ(解雇事由6)、同月二六日のA会社トラック入門阻止(同4)、昭和四〇年六月一二日のピケの行過ぎ(同7)、及び同年一二月六日、及び同月一一日の団交要求の行過ぎ(同イ及びロ)であるが、これらの所為については同時にそれが経済的地位の向上を目指す生活上の切実な要求に基づくものであること及びそれが争議中という異常な事態の下になされたものであることについて充分な配慮がなされなければならないというべく、この点及び前記認定に係る当該違法行為のなされるに至つた経緯及びその態様を検討考慮するに、他の解雇事由に比較して前記認定の程度の所為がその情状において特に重いということはできない。しかも解雇事由1については、実力による違法な業務妨害も短時間にすぎずその態様も特に悪質重大という程のものではなく、右違法行為の故を以て右争議行為全体が直ちに違法性を帯びるということができないのみならず、被申請人が右行為当時特にその責任を追及した形跡なくすでに二年以上も経過した後になつて解雇事由として取上げたことに徴しても、当時の状況下において、右違法行為が使用者により通常懲戒解雇の理由として取上げられる程度のものではなかつたことが窺われる。また就業時間内組合活動に関する解雇事由8、ト、ハ、ニについては申請人X1本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、組合は会社創業以来当時まで数十回に亘り就業時間内に執行委員会、合同委員会等を開催してきたが、これにつき会社は必ずしも明確な態度をとらず(乙第七号証の二によれば本件後に始めて会社は昭和四〇年一二月三日付書面で組合の執行委員長である申請人加藤に警告を発している。)成り行きにまかせていた観があり、申請人ら主張のように慣行とまではいえなくても事実上会社が就業時間内組合活動を黙認しているかのような感を組合に与えたものと推測されるのであつて、右申請人らが右の違法行為を敢行するに至つた原因につき会社側にも従来の組合側の右態度に対する適切な措置に欠けるところがあつたという点で責任があると考えられる。従つて、右申請人らの所為により会社の業務に支障を与えた影響は必ずしも小さくないにせよ、申請人らの右行為は、その情状において酌量すべきものであり、そのうえ、同解雇事由トについては、時間も比較的短時間であり、この点においても情状酌量の余地がある。同年七月二九日から同月三一日に至る積込作業に関する業務命令違反(解雇事由ホ)については、疎甲第二号証によれば申請人らはその主張の経緯から右所為に及んだものであることが認められ、他に右認定に反する疎明はなく、同申請人らが当時組合の執行委員の任にあつた立場上、従前A会社倉庫への運搬作業及び同倉庫内でのはえ積み作業を担当していた組合員のためを慮つてかかる所為に出たものでその心情を汲めばその情状において酌量の余地がないではない。また同年九月九日の氏名札の件(解雇事由へ)については特にこのために会社の業務遂行上実害があつたとも考えられないから未だこれを以て悪質重大なものということはできない。昭和三八年九月一一日のシヨベルに関する業務命令違反(解雇事由10)については、その情状必ずしも軽くないが、それが本件解雇処分より二年以上も前のことであり、会社が本件解雇前これを問題にしたことがない(会社が本件解雇処分前これを問題として取上げたことの疎明はない。)という会社の態度を考慮すればこれについても情状酌量の余地あるものというべきである。ところで以上の事情に加え、更に、被申請人の主張する解雇事由は、昭和三八年一月一五日から昭和四〇年一二月一一日まで約三年に亘る間のものであるが、会社は、従来右申請人らの違法な所為に対して必ずしもその都度適切な措置をとつておらず、(尤も乙第七号証の一乃至四によれば、解雇事由ホについては昭和四〇年七月三一日付の、同ハ、ニについては同年一二月三日付の、同イについては同月七日付の、同ロについては同月一四日付の各書面でいずれも当時組合の執行委員長である申請人X2宛に警告を与えていることは認められる。)就業規則(疎乙第一号証)上認められている譴責、出勤停止等の他の懲戒処分をこれまで全然問題にした形跡のないこと(従来会社がこの点を特に問題にしたことの疎明はない。)をも併せて考慮すれば、現在改悛の見込みがない程、情状が重いとして申請人らを一挙に懲戒解雇することは苛酷に過ぎ就業規則の懲戒規定の適用上懲戒処分をするについての裁量権の範囲を逸脱して著しく当を失した措置と解するほかはない。
 従つて会社が右申請人らに対してなした本件解雇処分は結局就業規則の適用を誤つたものとして無効というべきであり、このことは、申請人X2について妥当するほか、それより解雇事由の少ない申請人X1、同X3についても同様である。