全 情 報

ID番号 04293
事件名 仮の地位を定める仮処分申請事件
いわゆる事件名 石川島播磨工業事件
争点
事案概要  配転につき、「原則として三年間神戸事務所に勤務させる」との合意は期間経過後当然に原職に復帰させることを意味していないとして、元の部課への就労請求権はないとされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
裁判年月日 1968年5月13日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 2052 
裁判結果 棄却
出典 時報538号82頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 昭和三七年九月末、訴外会社は、技術部鉄構設計課で水門の設計を担当していた申請人に対し、同年一〇月一日付で神戸事務所へセールスエンジニアとして転勤するよう内示した。これに対し申請人は訴外会社が転勤命令を発した事由として挙げる陸上(構築物)部門の強化という方針や申請人を選任した具体的事情が納得しがたいとして労働協約の規定にもとづき苦情処理の申立をした。これについて一〇月四日労使の代表各三名の委員よりなる中央苦情処理委員会が開かれた。右委員会の席上では、申請人を神戸事務所に転勤させるにつき訴外会社があらかじめ一定期間経過後名古屋の職場に再配転する約束をするかどうか、その期間を何年とするかについて議論がされ、労使折衝のうえ、結局人事配置の事情についてとくに変化のない限りという留保を付して、申請人の神戸事務所における勤続期間を原則として三年とすること、その後は原則として名古屋で勤務させることに意見の一致を見、その趣旨で「申請人を原則として三年間神戸事務所に勤務させる」と決定された。右決定は、訴外会社および申請人の双方を拘束する効力を有するものであった。右決定内容の履行の確実を期するため、組合はあらためて訴外会社と右決定の趣旨どおりの合意をし(決定内容どおり合意がされた事実については当事者間に争いがない)、訴外会社労務部長Aおよび組合執行委員長Bの両名がそれぞれ右合意を記載した確認書に署名・捺印した。そして組合および申請人ともに、申請人が技術者で当時工場の技術業務を担当していたこと、会社には当時神戸事務所を除けば名古屋市外の職場としては東京事務所があったにとどまること、中央苦情処理委員会での論議が主として神戸在勤期間の点についてなされたことなどの事情もあって、申請人は原則として三年後には名古屋で勤務することになりその際は当然転勤前の職場ないしその他の技術担当の職場に配置されるものと考えていた。
 しかしながら、その際組合もしくは申請人が、訴外会社との間に将来申請人が名古屋で勤務する際の配置職場やその担当業務の種類について具体的に協議し、合意したと認めるに足りる疎明はない。
 したがって前記合意がその内容、当事者、作成の方式にてらし申請人の労働条件に消長を及ぼす労働協約の一種と解されるとしても、その効力の範囲は前認定の合意の趣旨を越えるものではないのであるから、前記合意により申請人が名古屋造船所鉄構設計課ないし橋梁設計課に就労させるよう請求する権利を取得したものと認めることはできない。それ故、申請の趣旨第一項についてはその被保全権利につき疎明を欠くものといわざるをえない。