全 情 報

ID番号 04298
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 松竹事件
争点
事案概要  退職金を異議なく受領したこと等により、将来解雇の効力を争わない旨の解雇の承認が労働者によりなされたとした事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇の承認・失効
裁判年月日 1968年7月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ワ) 7640 
昭和32年 (ワ) 7652 
裁判結果 棄却
出典 時報533号80頁/タイムズ228号148頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の承認・失効〕
 (四) 以上の事実関係からすると、新組合が被告会社と前記妥結をするについて原告らを代理する権限があったかどうかは兎も角としても、少くとも、原告らは右妥結内容およびこれに至った経緯を承知のうえ、同会社が右妥結に基づいて提供した本件退職金等を何らの異議等を留めることなく受領した以上、これによって原告らは右受領と引き換えに将来本件解雇の効力を争う権利を放棄したものというべく、この意味において、原告らは被告主張の解雇の承認をしたと解するのが相当である。
 原告らはいづれも右受領当時本件解雇を承認する意思は毛頭なかった旨主張、また、供述しているが、かりにそのとおりであったとしても、既に認定したように右意思が外部に何ら表明されていない以上、せいぜい心裡留保の域を脱することはできず、また、原告らの一部が本件退職金等受領後も時折撮影所附近で解雇反対のビラを配布し、社員章、バッヂ等を被告会社に返還しないまま未だ所持している事実が関係証拠から認定できなくはないが、右事実によっても前記結論を覆すには十分でない。
 次に、原告らは憲法等に違反して無効な解雇はこれを承認しても有効にならない旨主張するが、もともと解雇は形成権の行使であるから、これを承認するということは法律行為としては意味がなく、被告の右承認の主張は、本件における事実主張に即して法律的に構成すると、既に判断したように原告らが将来解雇の効力を争う権利を放棄した旨の主張であると解するのが相当であり、そうだとすると、原告らの右主張はその前提を缺いており、失当である。
 三 以上説示した次第で、原告らはすでに本件解雇の効力を争う権利を放棄している以上、いまさら解雇の無効を理由に雇傭関係の存在を主張することは許されず、同人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却を免れず、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。