全 情 報

ID番号 04315
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 三菱製紙事件
争点
事案概要  組合機関紙に掲載された記事が虚偽のものとしてなされた懲戒解雇につき、重きに失し無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動
裁判年月日 1968年11月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 2234 
裁判結果 認容
出典 労働民例集19巻6号1476頁
審級関係 控訴審/01768/東京高/昭47. 4.27/昭和43年(ネ)2579号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-違法争議行為・組合活動〕
 1 会社の就業規則八三条は、故意に工場の秩序を乱す行為をした者に対し懲戒処分として減給、出勤停止、懲戒解雇のいずれかを科するに当り、その情状による、と定めているので、債権者の右行為の情状について検討する。
 (1) 右記事をみると、前記のとおりAと債権者との問答を記載した部分において、真偽交錯し、その虚偽部分中には、他の機会に会社又はAが明示した事項からいわば転用されたものもある。結局債権者は真偽巧みにとりまぜてAの注意の趣旨を曲げたものである。
 (2) 右記事中「課長の話から大体会社の方針がわかるようである。……会社の非道な政策は必らず破たんする。」との部分は、結局「会社が労働強化を企図し、債権者らこれに反対する者を人事考課上も不利益に差別しているが、かような方策は労働者の反撃を受けて失敗する。」との趣旨に帰着し、これがその前に記載された債権者と松浪との真偽とりまぜた問答記事を前提としている点においてこれを一体として評価さるべきものであるけれども、右部分は組合員の団結意識の昂揚をも狙つたと推察できる。
 (3) 成立に争のない乙第二〇号証の一ないし四によれば、組合執行部は会社から債権者を懲戒処分に付したい旨の通知を受け、Aら及び債権者から事情を聞きとり、かつ右記事を検討した結果、「会社に対する批判を批判として書くことはよいが、この記事から受ける感じは誹謗と悪意がこめられてあることが認められる。」との印象を受けたこと、懲戒解雇後組合は中川工場抄紙課の職場集会を開いて、右解雇について検討したところ、債権者が、年次有給休暇付与を申出るに当り、同僚と希望日が競合し、いずれか一方が付与を断念しなければならない場合でも、決して譲ろうとしないなど、従前から同僚との協調性を欠いていたことを非難したり、右記事は真実に反すると批判する者が続出したことが疎明されるが、右記事が真実であるとか、記事に掲げられたAの発言が不当であるとか、その他債権者の右記事に同調する意見がでたとの疎明はない。この事実は右記事の企業秩序維持上及ぼした影響につき債権者に有利に判断さるべきである。
 (4) 右記事は組合機関紙による言論に属する。もとより組合機関紙による言論であつても、本件のような事実に副わないものは懲戒処分の対象たり得るのである。ところで組合活動の一環たる言論が事実に副うか否かの認定はその者のおかれた立場により異なり甚だ困難な場合が多く、その相手方たる使用者においてこれを虚偽と断定し懲戒解雇を容易になしうるとすれば、労働者は解雇をおそれるのあまり組合機関紙への寄稿を避け、ついには組合活動として欠くことのできない言論が衰退するとの懸念が存する。このことは処分の程度を決するに当り看過できない。
 (5) 債権者本人尋問の結果によると、債権者は従前会社から懲戒処分を受けた事実がなかつたことが疎明される。
 2 以上の諸事情を考慮すれば、債権者の前示所為には責められるべき点は存するが、債権者に対し、懲戒解雇をもつて臨むのは処分重きに失するというの外はない。会社は、債権者の人事考課がDとなつたのは、債権者が職場において協調性を欠き、数回にわたり作業上の過失により事故を起し、夜勤中火気厳禁の職場において蚊取線香をつけたまま仮眠する等、勤務態度が良好でなかつたことによるものであるから、右考課は公正であるにもかかわらず、債権者は自己の勤務態度につき何ら反省しないと主張する。仮令そのような事情があつたと仮定して、これを考慮にいれても、債権者は前示のようにかような勤務態度を理由に懲戒処分を受けたことはなく、会社もこれを本件解雇事由の一として掲げているわけでもないから、この事実を重視するを得ず、従つてなお本件懲戒解雇は重すぎるというの外はない。