全 情 報

ID番号 04332
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 港運送事件
争点
事案概要  無断欠勤を理由に解雇された者が、協約中の協議約款違反等を理由としてその効力を争った事例。
参照法条 労働組合法16条
労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1967年4月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和40年 (ヨ) 635 
裁判結果 却下
出典 労働民例集18巻2号349頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 労働協約にいう事前協議とは、労使が何らの前提を置かないで白紙の立場から誠実に解雇理由の有無を検討し、その結果を使用者の意思決定に反映させようとするものであるから、右の協議は文字通り事前になさるべきであり、これを経ないでなされた解雇は原則として無効としなければならない。
 しかしながら事前協議の究極の目的は、これによつて組合員が不当に解雇されることを防止するとともに、組合の経営参加を認めようとするにあるから、前後の事情を勘案し、右の趣旨に反しないと認められる場合には事後になされた協議を以て事前になされたそれと同視し、前者を以て後者に代えることが許される場合も絶無ではない。
 これを本件についてみるのに、前記認定の事実によれば(イ)本件解雇後になされた経営協議会における協議は時期的に解雇の時と接着しており、且つこれを以て事前協議に代えることにつき予め組合長から暗黙の了解を得ていたものと解されるから、機能的には事前協議に近い実質を有していたものと考えられる。(ロ)解雇意思の表示方法としてなされた本件解雇通知書の交付は激論の末冷静を欠くに至つたAが軽率にも申請人の求めに応じた結果なされたものであり、この時の申請人の反抗的態度が甚だしく不当であつたことは、一月二一日及びそれ以前の各欠勤が後記の如く悪質であつた事実に照し明白であるから、Aがこれに対し憤激し冷静を欠くに至つたのも無理からぬところである。右の事情に徴するならば、本件解雇が事前協議を経ない瑕疵(以下本件瑕疵という)を有するからといつて、これを以て会社側の協約軽視の性向のあらわれと目し得ないばかりか、この点について申請人も亦その原因を与えた者として責任の一半を負うべきである。(ハ)申請人は解雇通知書の交付を受けたときも、その後開かれた組合の緊急委員会に出席して弁明したときも、かつて本件瑕疵に言及した形跡なく、組合も亦経営協議会及び緊急委員会を通じてこの点を問題にした形跡はない。右の事実によれば会社、組合、申請人の三者とも、その意識の中では前記経営協議会における協議を事前協議と全く等価値のものとして取扱つていたことがうかがわれる。
 以上のように判断されるのであつて、この判断に従えば本件解雇後なされた経営協議会における協議は、前説示の理由により、事前協議と同視され、従つてこれに代るべき性質を有するものというべきである。
 そうだとすれば本件解雇は事前協議を経たものとして取扱うべきであるから、右解雇が事前協議条項に違反するが故に無効であるとする申請人の主張は採用しない。