全 情 報

ID番号 04506
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 日立製作所事件
争点
事案概要  被解雇労働者が使用者のしつようなる要請に基づき、じ後解雇に関しては一切異議を申し述べない旨付記した領収書を差し出したうえで退職金を受領した後、右解雇の効力停止の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1952年7月7日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和25年 (ヨ) 2889 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 労働民例集3巻3号217頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 事実によれば申請人X1、X2、X3、X4、X5、X6は退職を争はざる意思にて前記領収書を提出し退職金を受領したものと認められ、前記のように解雇につき争のあつた本件においては、ここに会社との間にそれまで争のあつた前記五月二十七日附解雇につき新たに同人等と被申請人の間に雇傭契約関係の存在しないことを確定して互にこれを争はざる旨の合意が成立したものと認むるほかなきもその余の申請人等は当時退職を承認する意思或は退職する意思なきにかかわらず前記領収書退職願等を会社に提出したものと認めるほかなく、右のような事情の下においては、会社においても申請人等が退職を承認し或は退職することに強い異議を有していることを容易に察知し得べきものというべきを以て、特別の事情のない限りその真意にあらざることを察知していたものと推認すべきところ、更に疏明によれば、
 一、亀有工場においては、会社は「協定成立に伴う退職支給金の支払に関する件」という会社の中央対策本部からの指示にもとづいて、即ち「別紙様式による領収書と引換えに退職金等を支給しその際領収書の内容を諒承したことを確めること、右領収書の提出を拒む者に対しては予告手当のみを支給しその他は支給しない」等の趣旨の指示にもとづいて、前記領収書の受領退職金等の支払をなし、前記八月二十二日の退職金等の受領者に対しては、提訴の有無を確め更に今後の提訴の意思を確めいづれもそのないことを認めて前記領収書を受領して退職金等を支払い、被解雇者X7が同年八月二十二日午後前記領収書を提出し翌二十三日退職金等の受領に来たのに対し、本店よりの連絡により同人が同月二十一日夕刻仮処分申請をなしたことを知つたので、その支払に応じなかつたこと。
 二、本店においては、前記のように八月二十二日申請人等と会社の間で退職につき抗争があつたが、申請人等より総連合との協定通りにしたいとの申出あり、会社より更に退職の意思を確めまた提訴の有無並にその意思を確めたるに申請人等より領収書通りであると答えたるため会社は前記領収書等を受領し午前十時三十分頃までに退職金等を支払つたこと。
 を認め得るので、会社が当時申請人等が前記のように仮処分の申請をしていることを知らなかつたこと及び退職する意思のないことを知つたならば領収書を受領して退職金等を支払うことのなかつた事情を認め得べく、他の疏明によるも、会社がひたすら領収書、退職願等退職の意思の形式的に表示されることにのみ専念しその真意を問はなかつたことを認めるに由ない。尤も右事実によれば、会社が前記領収書等と引換えにあらざれば退職金等を支払はない旨執拗に主張し、これがため生活に困窮する申請人等をして已むを得ず前記領収書等を提出するに至らしめたことを認め得るといえども、申請人等をして意思の自由を喪失せしめ或は申請人等を強迫して前記領収書等を提出せしめたとの事実を認めるに由なく他にこれを認めるべき疏明はない。従て、疏明の範囲においては、申請人等はその意思なくして前記領収書等を提出し退職の意思表示並に退職を争はざる旨の意思表示をなし会社はその真意にあらざることを知らずしてこれを受領しこれを認容して退職金等を支払つたものと認めるほかなく、この事実によれば、前記のように解雇につき争のあつた本件においては、会社が領収書等を受領し退職金等を支払つたとき会社と申請人等との間に、それまで争のあつた昭和二十五年五月二十七日附の前記解雇につき、新たに同人等と被申請人との間に雇傭契約関係の存在しないことを確定して、互にこれを争はざる旨の合意が成立したものと言はざるを得ない。