全 情 報

ID番号 04535
事件名 雇用契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 米極東空軍丘站司令部事件
争点
事案概要  保安上の理由により解雇された労働者がその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
日米安保条約3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
解雇(民事) / 解雇の自由
裁判年月日 1956年8月20日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (ワ) 3893 
裁判結果 認容
出典 労働民例集7巻4号701頁/時報84号3頁/タイムズ61号100頁/新聞15号4頁/訟務月報2巻10号57頁/ジュリスト115号73頁/裁判所時報214号144頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇の自由〕
 本件解雇は基準法第二十条第一項本文の規定によつてなされたものであることは前記のとおりであるが、その解雇は労働協約就業規則その他別段の契約又は不当労働行為等に関する労働法の規定に反しない限り自由になし得るものと解するのが相当である。
 而して使用者が労働協約又は就業規則若しくはこれに準ずるものによつて右の解雇権を制限することも、自由になし得るところであつて、法令上その限定の方式は定められていない。
〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 本件における原告ら主張の新労務基本契約は未だ発効するに至つていないので、その附属協定第六十九号による保安解雇に関する規定の効力を考察するに、前記認定事実によれば、右の協定は雇用契約の使用者の側である日本国と軍との契約であつて、組合側は当事者としてこれに参加したものでないことが明らかであるので、使用者と組合又は雇用契約当事者の合意と見ることはできないけれども、保安解雇に関する解雇基準とその実施手続とを明文で規定したものであるから、使用者の一方的に制定した労働条件に関する基準に外ならず従つて就業規則に準ずる効力を有するものと解するに妨げない。よつてその規定によつてどのような解雇権の限定がなされたかを検討する。
 元来就業規則等によつて使用者が解雇基準を設定した場合にこれによる解雇権の限定の有無及びその範囲はその規定の文言によるべきは勿論であるけれども、その文言の有する概念的意義に止らずその文言の使用された経過とその際の具体的事情及び解雇基準の設定が労働者の地位の安定を目的としてなされるものであることのわが国の労働慣行などを参酌してこれを決すべきは多言を要しない。
 ところで前記認定の附属協定第六十九号第一条によれば合衆国側は被告の提供した労務者が保安基準に該当すると認め、保安に危険であり又は脅威となると決定するときは解雇する旨規定しているのであるから、その文言的趣旨は保安基準に該当するとの認定と保安に危険と脅威となるとの決定によつて解雇の措置がとられるものと読まざるを得ない。そしてその趣旨は前記のとおり講和条約発効前に締結された労務基本契約に定めるところの解雇権行使の要件と異なるところがないのであるが、その後の三者会談において軍側のA中将は合衆国として保安の問題は最も重大である旨声明し、基本契約第七条はこれに関連して保安の基準を設定すると共に合衆国が保安上危険であると認定するときは、労務者を解雇する旨、明言し、保安解雇に関しては解雇に至るまでの手続を慎重にして労務者の保護を図つた外には従前の方針に変更を加える意図が窺えないことは前顕証拠に照し明らかであること、合衆国は日本政府に対して保安基準に該当の事実を必しも常に通告しない旨附属協定に定めていること合衆国においては解雇は一般に自由とされ、わが国とは社会的経済的事情を異にし解雇に関する労働慣行も異るものと考えられること等諸般の事情を参酌すれば、軍が保安上の理由で解雇の意思決定をなすのは合衆国の保安に危険又は脅威となるとの認定にのみ基くものであつて、この認定は専ら軍の主観的判断に止まり客観的に保安基準に掲げる事実の存在を要求しているものと解することはできない。
 してみれば保安基準に該当する客観的事実の存在は解雇権行使の要件としていないのであるから、これがある場合に限つて解雇権を発動するものとして解雇権を自発的に制限したものと解することはできない。
 なお原告ら代理人は三者会談において日本政府は正当な理由のある場合でなければ駐留軍労務者を解雇しない旨協定して解雇権を制限したものであり、保安解雇に関しては保安基準に該当する者のみの解雇に限定したものであつて、この内容を含む新労務基本契約の内容が慣行的な規範として成立していると主張するけれどもこの事実を認むべき証拠はない。
 然らば保安基準に該当する事実の不存在によつて本件解雇が右協定に違反する無効のものということはできない。