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ID番号 04541
事件名 災害補償決定取消請求事件
いわゆる事件名 名古屋北労基署長事件
争点
事案概要  労働者の業務上の負傷につき、使用者が右事故につき労働者側に重大な過失があるとして争い重過失の認定申請をしたところ却下されたためその取消を求めた事例。
参照法条 労働基準法78条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限
裁判年月日 1956年12月21日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (行) 16 
裁判結果 却下
出典 労働民例集7巻6号1071頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限〕
 労働基準法第七十八条、同法施行規則第四十一条は使用者が労働者の業務上の負傷に対する補償義務(同法第七十七条)を免れるためには労働者の負傷がその重大な過失に基くものであり、且それについて行政官庁(労働基準監督署長)の認定を得なければならない旨規定しており、一見右基準監督署長の認定が使用者の障害補償義務を免れるために必要な要件のようにみられるが、当裁判所はこれを消極に解する。けだし、同法第七十七条と第七十八条とを対照するに同法第七十七条は、原則的に、使用者の障害補償義務を規定し、同法第七十八条はその例外として労働者に重大な過失がある場合に右補償義務を免責される旨定めたものと解すべきであるからである。
 しからば同法第七十八条所定の行政官庁の認定というのはいかなる意義を有するかというに、それは結局障害補償が特に迅速に行われなければならないことに鑑み、その免責事由の有無について使用者、労働者間に争があるときは一応監督署長が公的な権威を以てその有無を確認し、これを以て当事者に対し紛争の迅速な解決、特に使用者の補償義務の履行を促し、罰則の適用とも相待つて障害補償の実行を期さんとする趣旨のもので、通常の権利関係の争の如く、その判定を通常長期間を要する民事訴訟にまつことを以て足れりとせず、むしろこれを避け、訴訟以前に紛争を迅速に解決処理しようとするいわば公的な斡旋もしくは勧告的性質を有するにすぎないものと解するを相当とする。それ故にこそ、同法の規定上においても行政官庁の右認定は抗告訴訟による取消を予定しているとみられるものが存しないのである。
 叙上のことは罰則の適用(検察官による起訴においても、刑事裁判による処罰においてもについても)同様であり、同法第百十九条は使用者に同法第七十七条の障害補償義務があるにかかわらず、これを履行しない場合に右罰則が適用されることを規定したもので同法第七十八条の監督署長による免責事由の認定の有無と直接には関係がないと考えるべきである。
 もしこれを反対に解するなれば客観的には労働者に重過失があるにかかわらず、監督署長がその認定を拒否した場合に、その一事のために使用者が補償を行わないと直ちに右罰則の適用をうけるがごとききわめて不当な結果となるからである。
 これを要するに労働基準監督署長の前記認定(実質的には申請の却下決定)はすでに説明したとおり単なる斡旋ないしは勧告にすぎないものであり結局被告の義務に何等実体的法律効果を及ぼすものではなく、従て抗告訴訟の対象となるべき行政処分に該当しないというべきである。