全 情 報

ID番号 04543
事件名 遺族補償金等請求事件
いわゆる事件名 東進交通事件
争点
事案概要  タクシー運転手が無断時間外勤務中に事故死したケースにつき遺族が業務上災害であるとして使用者に遺族補償等を請求した事例。
参照法条 労働基準法78条
労働基準法80条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務中、業務の概念
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限
裁判年月日 1960年1月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ワ) 3094 
裁判結果 認容
出典 労働民例集11巻1号89頁/時報214号31頁
審級関係
評釈論文 労働経済旬報436号27頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務中、業務の概念〕
 ここに業務上とは、正規の執務時間中執務場所において使用者の指揮命令下にある場合を指すのが一般であるが特に本件においては右時間の点について問題を生ずる。証人Aの証言や同証人の証書により成立を認め得る乙第一二号証の一乃至一八、乙第一三号証の一乃至二七、成立に争いのない乙第一一号証当裁判所において真正に成立したものと認められる乙第三第四号証によれば被告会社においてはその給与規定などで自動車運転手は午前一時までに帰社することの定めがあり午前二時以後に帰社した者に対しては、往々にして始末書を徴している事実を認めることができる。それゆえに被告は本件事故は午前二時五五分頃の出来ごとで右時間外に係るから業務上のそれではないと主張する。しかし成立並に原告の存在について争いのない甲第四号証の一乃至五(主として昭和三一年一二月中の乗務詳細日報)によれば当時運転手で制限時間におくれるものも相当多いことを看取し得るし、証人Bの証言によるも貸切旅客運送の特質上その帰社時限なるものは、他の一般企業における勤務時間とは自らその性質を異にするものであることを認めることができる。しかも運転手が右時限に遅れるおそれあるときは被告会社に通報連絡することによつて多く右社則違反の責を免かれ得ることは証人Aの証言により認められるところ、また右時限後においてもこの連絡により被告会社より当該運転手に対し指揮命令をなし得る情況にあることは容易に推認し得るところである。しかも前記甲第四号証の一乃至二五によれば、いわゆる時間外稼働による収益もすべて被告会社の所得となる事実を認め得るので、無断で帰社時限に遅れた場合に当該運転手に対し懲戒を与えることがあるとしても、これは単に使用者の企業経営の必要上その内部関係における統制の問題に外ならず無断時間外の運転行為を以て業務外の行為と即断することは許されない。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-保険料の怠納、労働者側の重過失等による給付制限〕
 本件補償金の請求は労働基準法第七九条第八〇条に基く遺族補償と葬祭料の請求であり、これ等請求の要件として、重大な過失の有無を問わぬことは同法第七八条の反対解釈からも明認し得るところ、また実質的にみても右第七九条の補償は遺族に対するものであるから、死亡者の主観的条件如何によつてこれに影響を与えないことを以てむしろ相当と考えられる。