全 情 報

ID番号 04556
事件名 仮処分異議事件
いわゆる事件名 阪神電車事件
争点
事案概要  いわゆるレッド・パージとしての解雇につき協約の解雇承認条項の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法16条
体系項目 解雇(民事) / 解雇手続 / 同意・協議条項
裁判年月日 1960年5月10日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (モ) 723 
裁判結果 認容
出典 労働民例集11巻3号455頁/時報232号30頁
審級関係
評釈論文 後藤清・判例評論30号20頁/労働経済旬報456号20頁
判決理由 〔解雇-解雇手続-同意・協議条項〕
 経営協議会は、従業員組合が使用者の経営に参加する方法として設けられたものであるから、組合側選出委員の協議会における行動は従業員の総体的意思を体してなされるものであることはいうまでもないが、もとより経営協議会は団体交渉とは本質的に異るものであるから、組合側委員は、組合を代表又は代理して組合としての意思決定をする権限を当然には有しないものといわなければならない。本件会社の経営協議会の性質も右と異るものでないことは、前示甲第五号証により認められる労働協約第五〇条「経営協議会の協議成立事項は双方の機関の承認を経たときにこの協約と同一の効力を有する。」との規定の趣旨に照らし明らかである。従つて経営協議会委員がその資格において単なる協議に応ずるに止まらず、何等かの必要に基き(例えば本件の如く事実上の団体交渉に転移した場合の如き)組合としての意思決定をなし得るためには、組合(現実には当該事項につき処理権限ある組合の機関)の特別の授権を必要とするものである。
 ところで当裁判所が弁論の全趣旨に徴し成立を認める甲第一二号証(組合規約)によれば、組合には大会中央委員会、及び執行委員会の三機関が設置され、各機関の権限すなわち処理事項はそれぞれ組合規約第一六条、第二〇条及び第二一条により定められていること、右第一六条には大会の処理事項として「一、組合の運動方針、二、予算の決定及び決算報告の承認、三、上位団体への加入又は脱退、四、総罷業の決行、五、労働協約の締結及び改廃、六、一件十万円以上の資産の管理とその処分、七、一件二十万円以上の臨時支出、八、組合基金の支出、九、その他組合員に重大な影響を及ぼすべき事項」が、第二〇条には中央委員会の処理事項として「一、当面の活動方針とその対策、二、疑義を生じた規約並びに諸規則の解釈、三、一件一万円以上の臨時支出、四、組合員以外の雇傭、五、その他前各号に準ずる事項」が掲げられ、第二一条には執行委員会の権限として、執行委員会は大会及び中央委員会の決議並びに緊急事項を処理、執行するのであるが、前記第一六条、第二〇条列挙の事項については緊急処理ができない旨定められていることが認められる。よつて考えるに、前記各規定を相互に関連させ各事項の軽重を比較し、合理的に解釈するならば、解雇に関する承認は、第一六条、第二〇条所定事項以外の執行委員会の処理に適する事項といえないことはもちろんであり、又中央委員会の権限とされる第二〇条第五号の「その他前各号に準ずる事項」に該当するとすることも、同条中の同じく人事に関する第四号「組合員以外の雇傭」なる規定と対比して到底承認できず、結局第一六条第九号「その他組合員に重大な影響を及ぼすべき事項」に含まれる大会処理事項と解さざるを得ない。もとよりこのような解釈を採るときは、解雇問題発生の都度、人員の多少事案の軽重に拘らず大会の招集を必要とし、問題処理上機動性を欠く結果となるが、これを避けるためには他になんらかの方法を求めるべきであつて、規約の解釈としてはやむを得ないところである。
 しかして本件においては、中央委員会が経営協議会委員に権限(授権文言中解雇承認の語句は見られないのであるから、全権といつても交渉に関する全権と解する余地もあり、示された授権の範囲そのものが必ずしも明確でない)を付与した事実があることは前認定のとおりであるが、中央委員会としては本来自己の有しない解雇承認権を他に与えることができないことは当然であるから、組合側委員のなした前記承認はたとえ当該交渉委員が、その権限の範囲及び妥結の有無につきいかような発言をしたとしても、それは客観的に権限を有しない者の行為に過ぎず、組合に対して効力を及ぼすものではないから、組合の承認ということができない。