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ID番号 04561
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 ナニワ工機株式会社事件
争点
事案概要  経歴詐称、勤務態度不良、通勤費不正受給等を理由とする解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法3条
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1960年6月13日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 366 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集11巻3号636頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 債務者は、同会社内における債権者の組合活動を知り、債権者の組合活動歴等を調査探知した結果、これら理由によつて債権者を解雇することを企図し、本件解雇に及んだものであると主張するので按ずるに、弁論の全趣旨により真正に成立したと認めて差支えない疎甲第六号証によると、債務者は昭和三十三年三月頃債権者を雇傭するに際し債権者の従前の勤務先である訴外A株式会社に債権者の従順、真面目さ、思想傾向、組合活動等について問合せをなし調査したことはこれを窺うことができるが、証人Bの証言によつて真正に成立したと認める疎甲第二号証中債権者の主張にそう部分は措信し難く、本件解雇前債務者が債権者の前記(2)の事実中(イ)の事実、(ハ)の事実中C学校通学以外の事実及び(ニ)の事実を知悉していたと認めるにたりる疎明はなく、むしろ、前記二において認定の如く債務者が債権者の住所、前科等を調査し更に債権者を解雇するに至つたのは、昭和三十三年三月債務者が債権者の負傷見舞のため守衛をしてその届出住所を訪問せしめた際その住所、前科の存否につき疑を抱いたことに端を発して訴外D会社に依頼してこれら事実の調査をなし、その結果住所は届出住所と異つており、その届出の義務を怠り、かつ、前科が存在するものと判断し、これらの事実によると債権者には通勤費不正受給並びに前科秘匿による前歴詐称の事実あるものと認めたこと、及び、債権者は偶々同年五月臨時工から本従業員への採用有資格者となるのでその採用の可否について債権者の就業成績を調査したところ、勤務成績不良の報告を受けたこと、そしてこれらの事情を綜合して債権者を解雇するのを相当と認めて解雇したものと認めるのが相当であつて叙上認定を覆して債権者の主張事実を認めるにたる疎明は存在しない。
 (5) 従つて、債務者は債権者の組合活動に特に関心を持ち、債権者の組合活動を理由として本件解雇をなしたものとは到底認め難いから、不当労働行為に関する債権者の主張はこれを採用することができない。
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 債権者は、右解雇は債権者の信条を理由とするもので、憲法第十四条、労働基準法第三条に違反し無効であると主張する。
 しかして、債務者が従業員を雇傭するに際し債権者主張の如き誓約書を徴していることは当事者間に争がない。しかしながら、債権者が主張の如くレツドパージによつて解雇され又所謂枚方事件に関係していることを債務者が本件解雇前探知知悉していたことを認めるにたりる疎明は何等存在せず、成立に争のない疎乙第二十三号証、証人E、同Fの各証言によれば、右誓約書の様式は昭和二十八年頃火焔瓶等を使用した破壊活動が世上相ついで起つたため、かかる行為をなすものは共産主義者であるという考えのもとに、右活動を予め防止する目的で従業員の採用に際し「現在共産主義者で(ありません、あります)」「今後御社に在職中は共産主義活動は(致します、致しません)」の条項を含み、その括弧内のいずれか一方を抹消しうるような右誓約書を印刷使用していたが、右は必ずしもそのいずれかの抹消を強制されていたものではなく、現に債権者はこれを抹消しないで提出しており、又右部分はその後改正されていること、並びに、債務者は共産主義思想を有するもの乃至共産主義者であつたもの五、六名を現に従業員として雇傭していることを窺うことができると共に、本件解雇は前記二、において認定した理由に基くもので、債権者が共産主義者であることを理由になしたものとは認められないから、この点の主張は理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 債権者は、前科秘匿の事実は就業規則第七十九条第十一号の懲戒処分に付すべき場合に該当するから、かかる場合本人の利益のためと称して通常解雇はできないものというべく、右懲戒事由に該当する事実を理由として解雇するためには懲戒処分に付する場合と同様の規定に該当し、かつ、その手続を経なければならないと主張する。本従業員就業規則第七十九条第十一号が債権者主張の如く規定されていることは当事者間に争がなく、成立に争のない疎乙第二十六号証によれば、同就業規則第八十条において懲戒処分に処するためには賞罰審査委員会の議を経るを要することが認められるけれども、右が懲戒処分に付すべき場合に該当するとしても、前記の如く債務者において右事実につきこれを懲戒処分に処すると否とは債務者の任意であり、通常解雇をなすことも亦当然許容されるものというべく、通常解雇をする場合特に懲戒処分をなすと同様の実体上の要件を充足し手続上賞罰審査委員会の議を経なければならないという制限の存在も認められず、又本件が懲戒を目的として通常解雇に及んだものとも認められないから、この点に関する債権者の主張も亦認められない。