全 情 報

ID番号 04573
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 中央交通事件
争点
事案概要  組合脱退者を就労させない旨の組合と会社との協定に基づき就労を拒否された者が賃金支払および就労させることを求めた事例。
参照法条 労働基準法11条
民法536条2項
民法623条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 仕事の不賦与と賃金
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 就労請求権・就労妨害禁止
裁判年月日 1960年11月15日
裁判所名 横浜地
裁判形式 決定
事件番号 昭和35年 (ヨ) 478 
裁判結果 一部認容,却下
出典 労働民例集11巻6号1302頁
審級関係
評釈論文 花見忠・ジュリスト252号93頁
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-仕事の不賦与と賃金〕
 被申請人が申請人等の就労を拒否するにいたつた経緯は、神奈川県ハイヤー、タクシー労働組合Y会社支部との間の昭和三十五年七月二十一日付の契約の結果であることは前記説明により明らかであるが、前記の如くユニオン・シヨツプ協定のない本件の場合には、被申請人は右契約によつては単に神奈川県ハイヤー、タクシー労働組合Y会社支部に対し申請人等をして就労せしめない債務を負担するにとどまり、この契約をもつてただちに申請人等の意思に反し就労を拒否し得る正当事由となし得ないものと解すべきであるところ、疎明によれば被申請人会社は、就業規則等にもかかる場合をもつて就労拒否又は休職の事由としていないのにもかかわらず、申請人等の就労を拒否した結果、同年八月一日にいたり、申請人等は被申請人会社と神奈川県ハイヤー、タクシー労働組合Y会社支部との間の話合が今後一週間乃至十日位おそくとも一ケ月以内には成立しこれによつて申請人等の件が解決され得るものと信じ、又被申請人会社もかかる前提のもとに前記休業補償協定を結び、その結果申請人等は被申請人会社の措置を一応是認して就労を停止したものであることが認められる。従つて右経過及び事柄の性質からみれば、被申請人会社と神奈川県ハイヤー、タクシー労働組合Y会社支部との話合解決に必要な前記期間を経過するも解決をみない場合には当然一方的にその協定を破棄失効せしめ得るものであることを予定していたものと解するのを相当とするところ、申請人等は前記期間の経過後である同年九月十日付をもつて、同月十五日迄に申請人等を就労せしめない時は右休業補償協定を破棄する旨を被申請人会社に通告し、被申請人会社は右九月十五日を経過するも申請人等を就労せしめなかつたことは既に説明したところであるから当然に同日の経過をもつて右休業補償協定はその効力を失い、以後申請人等は被申請人に対し適法に労務の提供をなし得るに至つたものというべく、疎明によれば申請人等は同年十月一日就労を求め、現実に労務の提供をなしたものであることが認められるから、同日以後被申請人会社は受領遅滞におちいり民法第五百三十六条第二項の責任を負担するに至つたものというべきである。
 (二) 以上の次第で申請人等は昭和三十五年十月一日より賃金規則所定の賃金全額の請求権を有することが明らかである。
〔労働契約-労働契約上の権利義務-就労請求権・就労妨害禁止〕
 元来提供された労働力の配置、使用は使用者の権利に属し義務に属するものではないから、特段の事由のない限り、その対価としての賃金の支払をなせばかならずしも就労せしめねばならぬものではなく、又本件の場合、疏明によれば被申請人会社は申請人等がいわゆる第二組合に属するが故に差別待遇する意図を持つてその就労を拒否しているものとはにわかに断じ難いのみならず、むしろ神奈川県ハイヤー、タクシー労働組合Y会社支部との間に申請人等の処置につき円満なる話合解決をした上、申請人等を就労せしめんとして、(その当、不当は別として)申請人等の就労を拒否する結果となつたものであり、被申請人会社としてもその解決のために努力しているのみならず、申請人等においても平均賃金を得れば、たとえ、現実に就労した場合に得るであろう季節的増収及び乗客からのチツプ等の賃金以外の特別収入を得なかつたとしても回復し難い損害を受けるとは認められないから、少くとも平均賃金の支払を命ずれば、そのいずれの仮処分もその必要性を認め難い。