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ID番号 04575
事件名 免職処分無効確認請求事件
いわゆる事件名 横浜市・横浜市教育委員会事件
争点
事案概要  いわゆるレッドパージとして免職処分を受けた地方自治体の職員がその効力を争った事例。
参照法条 地方自治法172条
労働基準法20条1項
労働基準法3条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1960年11月19日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (行) 11 
裁判結果 請求棄却
出典 行裁例集11巻11号3219頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 原告等は被告等主張の八月二十六日付で全員依願退職する旨の和解条項は、本件免職処分を取消して依願退職処分に改める旨の合意であるから、本件和解契約の成立によつて、本件免職処分の取消、依願退職の申出及び依願退職処分がなされたものであつて、本件和解契約とは別に本件免職処分取消の意思表示がなされたものではない。原告等が本件和解契約成立と同時に退職願を提出したのは和解条項にいう依願退職の形式を整えるためであつて、和解条項と離れた独自の意義を有するものではないと主張する。
 しかし被告等主張の和解条項が本件免職処分を取消して依願退職に改める旨の合意であると解すべきことは原告等主張のとおりであるが、叙上認定したところにより明らかな如く、原告等を含む被免職者二十六名の申立にかかる不当労働行為被疑事件において本件免職処分の効力につき右当事者間に争いがあつたため、神奈川県地方労働委員会の勧告により、当事者双方互に譲歩して争いを止めるため被告等主張の和解条項を骨子とする本件和解契約が成立したものであること及び本件和解契約にはその外に依願退職に伴う特別手当支給の和解条項、A外四名の採用に関する和解条項があり、これらの和解条項は本件和解契約とは別に原告等より依願退職願の提出があること、横浜市長及び被告横浜市教育委員会より依願退職の発令があることがそれぞれ予定されていることを考慮し、更に公務員の依願退職処分は通常文書によつてすなわち、当該公務員より辞職の意思の表明である退職願を徴し、これにもとずいて、退職の辞令を交付する方法によつて行われていること、また和解は対等の地位にある当事者間の意思の合致たる契約の性質を有するに反し、公務員の免職処分の取消及び公務員の依願退職処分はいずれも優越的意思の発動としての公権力の行使たる行政行為であつて、両者互に行為の本質的性格を異にしていることを思い合わせると、本件和解契約により、横浜市長及び被告横浜市教育委員会は職権で本件免職処分を取消して原告等を依願退職処分にすることを、原告等は依願退職処分に同意して、依願退職願を提出することを相互に約束したものであつて、本件和解契約はそれ自体決して本件免職処分の取消、依願退職の申出及び依願退職処分なる三個の意思表示を内容とし、構成要素とするものではないと解するを相当とする。従つて、原告等は本件和解契約を履行するため、依願退職願を提出することによつて依願退職の意思を表示し、これにもとずいて依願退職の辞令が交付されたとき始めて原告等に対する依願退職処分が有効になされ、これによつて同時に本件免職処分を取消す黙示の意思表示がなされたものと認めるのを相当とする。なお、行政行為の取消はその成立に瑕疵がある場合に許されるが、この場合に限らず、本件の場合の如く瑕疵の存否について当事者間に争いがあるため、その争いを止めるため互に譲歩して和解が締結され、譲歩の方法として行政行為の取消がなされることもまた許されるものと解すべきである。
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 原告等の本主張は、内閣総理大臣の異議が米国及び日本政府並びに被告等の共謀による強迫行為であることを前提とする。
 しかし原告等を含む被免職者二十九名が前述の如き解雇処分取消並びに給料支払請求の訴を提起した際、それと共に行政処分の執行停止命令を求める申立をなしたこと、並びに原告X1等の右申立に対しては昭和二十四年十月十八日に、原告X2の右同趣旨の申立に対しては同年十二月五日それぞれ内閣総理大臣より原告等主張の如き理由にもとずく行政事件訴訟特例法第十条第二項但書による異議が述べられ、その結果右処分の執行が停止されなかつたことは当事者間に争いがないが、成立に争いのない甲第十五号証の一、甲第十六号証(いずれも内閣総理大臣名義の行政事件訴訟特例法第十条に基く異議と題する書面)の記載自体からも又その他原告等の援用提出にかかる全証拠によるも、右内閣総理大臣の異議が原告主張の如き米国及び日本政府、並びに被告等の共謀による原告等に対する強迫行為であるとは認めることができないのみならず内閣総理大臣の右異議が原告等主張の如き事由で法律上当然に原告等に対する強迫行為を構成すると解することもできない。                   従って、その余の点を判断するまでもなく原告等の本主張も又理由がない。