全 情 報

ID番号 04614
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 第一屋製パン事件
争点
事案概要  上司に対する暴行を理由とする懲戒解雇が有効とされた事例。
 解雇処分の決定まで一時出勤停止を命じうる旨の労働協約にもとづく右出勤停止は懲戒処分ではなく、二重処分にあたらないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法14条
労働組合法16条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
懲戒・懲戒解雇 / 処分無効確認の訴え等
裁判年月日 1963年2月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 決定
事件番号 昭和36年 (ヨ) 2207 
裁判結果 却下
出典 タイムズ144号117頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 以上認定した事実によれば、AにもBの班長昇格を期待させる軽卒な言動があつたことは否定できず、これに強い期待をもつていたBに友人として同情した申請人の心情も察せられないではないが、申請人とAは日常場所を同じくして勤務している間柄であり(前記のように被申請会社本社と蒲田工場は同じ場所にある)、勤務先において話合う機会があるにもかかわらず、飲酒のうえ、深夜上司であるAの自宅を訪れ、就寝中の同人を戸外に引張り出し、前記のような行動に及んだことは、およそ話合いというに値するものではない。従つて、前記暴行をした申請人は、懲戒解雇の事由を定めた被申請会社の就業規則第七〇条第四号、「正当な理由なく上司の命令を侮辱し、又は反抗し、若しくは上長に対し暴行を加えた者の規定に該当することは明らかであり、かつ申請人の暴行を含む前記行為はいたずらに他人の私生活の平穏を乱し、その家族にまで不安の念をいだかせるものであつて、懲戒処分の情状軽減を定めた同条但書の規定を適用する余地もない。してみると、本件懲戒解雇は、その事由に該当する事実がないから、懲戒権の濫用として無効である、とする申請人の主張は理由がない。
〔懲戒・懲戒解雇-処分無効確認の訴え等〕
 被申請会社とその従業員をもつて組織する被申請会社労働組合(以下、組合という)との間に締結された「組合員の解雇に関する協定」(以下、協定という)第一条には、「会社は組合員を解雇する場合先ず出勤停止一週間を超えない範囲で本人に申渡し、その期間満了後解雇するものとす」と、規定され、被申請会社は組合員に対する解雇手続として、解雇処分を決定するまで一時解雇該当者を企業から除外するため、その者に出勤停止を命ずることができるのであつて、右規定にいう出勤停止は、解雇処分の前の処分であつて、解雇処分自体ではない。ところで、被申請会社は、同月一六日Aから、申請人及びBの前記行為について報告を受けるや、申請人、B及びAから事情を聴取したうえ、当時台風接近による製パンの緊急対策を講ずる必要もあつたので、申請人及びBに対する懲戒処分を一応留保し、前記協定第一条により、両名に対し、同月一七日から七日間の出勤停止を命ずるとともに、追つて正式の処分あるべき旨を告げ、同月一七日両名の処分について組合とも意見を交換し、同月二〇日更に両名から弁明を受けた後、前記のように、申請人に対し本件解雇、Bに対し一〇日間の出勤停止の各懲戒処分を行なつた。
 以上認定した事実によれば、被申請会社が同月一六日申請人に対してした出勤停止は、協定第一条の規定による懲戒処分前の処分であつて、懲戒処分でないことが明らかである。たとい、申請人の主張するように、協定が公序良俗に反するため無効であり、又協定が当時組合員でなかつた申請人には適用されないとしても、これらのことは、協定に基く右出勤停止の効力に影響を及ぼすことがあるに過ぎず、なんら右出勤停止を懲戒処分と認定すべき理由とはならない。なお、協定に、右出勤停止期間中は賃金を支給されない旨規定されていても、そのことのみで、協定に基く出勤停止を懲戒処分と認定することはできない。
 以上の次第で、被申請会社の申請人に対する右出勤停止は懲戒処分ではないから、本件懲戒処分として無効であるとする申請人の主張は理由がない。