全 情 報

ID番号 04642
事件名 損害賠償請求控訴同附帯控訴事件
いわゆる事件名 日産生命保険相互会社事件
争点
事案概要  保険契約が解除または取り消されたときは、募集社員は当該契約成立によって受けた給与を返還させる旨の規定がある場合でも、外務員の過失に基づかないで解除または取り消されたときは、会社に給与を返還する義務はないとされた事例。
参照法条 労働基準法16条
労働基準法24条1項
体系項目 労働契約(民事) / 賠償予定
裁判年月日 1963年11月5日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ネ) 792 
昭和33年 (ネ) 265 
裁判結果 控訴棄却・取消
出典 東高民時報14巻11号287頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-賠償予定〕
 控訴会社はまずその給与規程に基き外務員たる被控訴人Y等に対し給与金の返還を求めるのでこの点について考える。
 証拠によると、控訴会社には給与規定附則取扱規則(甲第一二号証)なる定めがあること、これによると「左の場合に在りては募集社員及其所属上職員が当該契約成立に因りて受けたる諸給与の全部を戻入せしむ、(イ)会社が契約を解除又は取消したるとき、(ロ)被保険者が契約成立前に発病又は死亡し居りたるとき、(ハ)慈愛保険興亜保険に在りては被保険者が契約成立後一ケ月以内に死亡したるとき但法定伝染病、戦争又は災害に因る死亡の場合を除く、(ニ)其他募集上不正、不都合ありと認めたるとき、云々」なる文言のあることがわかるが、右の(イ)の定めは、保険の募集又は保険契約の取消、解除につき少くとも過失による職務違反等募集社員に責むべき事由がある場合に関する定めであつて、前記のように外務員たる右被控訴人等に何ら責むべき点がみとめられない本件においてはその適用をみないものと解するのが相当である。なんとなれば右の細則を全体としてとらえ、その全体の文脈との関連で右(イ)ないし(ニ)の定めを考察するときは、右(イ)ないし(ニ)の定めがいずれも募集又は契約の取消、解除につき故意又は過失による職務違反等募集者に責むべき事由があることを前提としていると解されるし、また外務員が過失なくしてその才幹努力による募集により保険契約の成立を導き、その報酬たる性質をもつ給与金を受けた後、右契約がその外務員の過失に基かずして控訴会社の都合で解除、取消された場合にも外務員が右給与金を控訴会社に返還せねばならないとすることは衡平の理念に反すると考えられるからである。それ故控訴会社は右被控訴人等に対し右の(イ)の定めを根拠として給与金の返還を求めえないというべきである。また右の(ニ)の定めが前同様募集外務員に責むべき事由のあることを前提としていると解すべきことはその文言自体明らかであるから、本件において控訴会社が右被控訴人等に対し右の(ニ)の定めを根拠として給与金の返還を求めえないことも多言を要しない。