全 情 報

ID番号 04673
事件名 仮処分控訴事件
いわゆる事件名 板付基地事件
争点
事案概要  板付空軍基地に勤務している駐留軍労務者が保安上の理由により解雇されたことにつき、真の解雇理由は組合活動にあるとして不当労働行為により無効であるとしてその効力を争った事例。
参照法条 労働基準法20条
労働組合法7条1号
日米安保条約3条
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 保安解雇
裁判年月日 1957年11月25日
裁判所名 福岡高
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ネ) 594 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集8巻6号937頁/時報141号29頁/訟務月報4巻3号344頁
審級関係 一審/04533/福岡地/昭31. 8.10/昭和31年(ヨ)202号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-保安解雇〕
 基本協定第七条に「契約担当官において契約者が提供したある人物を引続き雇用することが米国政府の利益に反すると認める場合には即時その職を免じ、スケジュールAの規定によりその解雇を終止する。」との一般条項が存し、その一般条項に基く解雇の基準とその手続を設定するために締結された付属協定第一条にはa項において保安基準として(1)作業妨害行為、諜報、軍機保護のための規則違反またはこのための企図もしくは準備をなすこと、(2)アメリカ合衆国の保安に直接的に有害であると認められる政策を継続的にかつ反覆的に採用し、もしくは支持する破壊的団体または会の構成員であること、(3)前記(1)号記載の活動に従事する者または前記(2)号記載の団体もしくは会の構成員とアメリカ合衆国の利益に反して行動をなすとの結論を正当ならしめる程度まで常習的あるいは密接に連繋することの三基準が掲げられていること。ならびに同条b項第三条第五条c項ないしe項において日本側の提供した労務者が第一条a項に規定する保安基準に該当するとアメリカ合衆国側が認める場合には米軍側の通知に基き最終的な人事措置の決定があるまで当該労務者が施設および区域に出入することを直ちに差し止めるものとし、右人事措置の実施細目として(イ)米軍の指揮官が労務者が保安上危険であるとの理由で解雇するのが正当であると認めた場合には当該指揮官は米軍の保安上の利益の許す限り解雇理由を文書に認めて労務管理事務所長に通知し、所長は三日以内にそれに関する意見を通知する。(ロ)当該指揮官は更に検討したうえ、嫌疑に根拠がないと認めた場合はその者を勤務状態に復帰せしめるが、なお保安上危険であると認めた場合には上級司令官に報告する。(ハ)上級司令官は調達庁長官の意見をも考慮のうえ審査し、保安上危険でないと認めれば復職の措置を、保安上危険であると認めれば解雇の措置をとるよう当該指揮官に命ずる。(ニ)上級司令官から解雇の措置をとるよう命ぜられた当該指揮官は労務管理事務所長に対して解雇を要求する。(ホ)労務管理事務所長は当該労務者が保安上危険であることに同意しない場合でも解雇要求の日から十五日以内に解雇通知を発しなければならないと規定されていることがそれぞれ認められ、かかる規定から観れば、元来保安解雇が米軍の保安のためになすものであり、かつその保安基準自体が終局的にはアメリカ合衆国側の認定を尊重せぜるを得ないような規定の仕方(特に付属協定第一条c項・第五条c項にアメリカ合衆国側が保安解雇に該当する理由を必ず日本側に通告するものとは定めていないこと)がなされていることが認められるので、付属協定は米軍が保安基準に該当するかどうかを決定するに際し日本政府機関に意見陳述の機会が与えられ、これを考慮したうえ更に審査がなされ得るとはいえ、結局は米軍が保安基準に該当すると認定した労務者を日本側において解雇すべきことを約した協定に過ぎず、保安基準に該当する客観的事実があつて始めて控訴人において駐留軍労務者を解雇できる趣旨で定められたものと解することはできない。
 従つていわゆる保安基準に該当するか否かの判断は終局的には米軍の主観的判断に委ねられているものと認めざるを得ないから米軍において被控訴人等をいずれも付属協定第六十九号第一条a項の(3)所定の基準に該当するものとして本件解雇がなされていること前示のとおりである以上、本件解雇を以て基本契約および付属協定に違反し無効であるということはできないから、この点についての被控訴人らの主張は理由がないものといわなければならない。
 〔中略〕
 本件解雇においては被控訴人らの前示のような組合活動がその理由となつたものではなく、他の理由によるものであることが特に明らかでない限り前示認定事実およびこれが認定に資した諸資料に照し、一応右解雇は専ら被控訴人らの組合活動をその決定的理由としてなされたものと推定せざるを得ない。
 もとより控訴人は本件解雇については被控訴人らにおいて保安基準に該当する事実があつたと米軍が認定したことを以てその理由となすに十分であつて、右事実の客観的存在を必要とするものではないと主張し、当裁判所もこれを認容するものであること前示のとおりであるが、これは右解雇が単に法律上の積極的要件を充足する意味において有効か否かを判定する場合のことであつて、右解雇が不当労働行為を構成するか否かの判定に当つては、これが単に右の意味において有効であるからといつてただちに不当労働行為の成立を否定する理由となすに足らないことはいうまでもないところである。
 しかして控訴人において右保安基準に該当する事実の具体的主張はなんらなさないところであるのみならず、右事実が存在したことおよび米軍が右事実が存在すると認定したことが本件解雇の決定的な理由になつたことについては原審証人A・B・C・当審証人Dの各証言によつてもこれを首肯するに足らず、他にこれを窺わしめるに足る資料とてもないので、結局本件解雇の意思表示は労働組合法第七条第一号の不当労働行為となすのほかはないものというべきであり、従つてその余の争点について判断するまでもなくこれを無効であるとしなければならない。