全 情 報

ID番号 04688
事件名 雇用契約存在確認請求事件
いわゆる事件名 日本ゴム工業事件
争点
事案概要  本社工場ゴム部門ロール職場において製練工として勤務していた従業員が勤務時間中喫煙のため三〇分ないし四〇分間無断で職場を離脱したことを理由として懲戒解雇されたことにつき不当労働行為であるとして争った事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働組合法7条1号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職場離脱
裁判年月日 1959年6月27日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ワ) 5194 
裁判結果 認容
出典 労働民例集10巻3号470頁/時報190号31頁/タイムズ92号93頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職場離脱〕
 原告は被告のロール工場製練職場に勤務中昭和二九年七、八月頃喫煙場所以外のところであるボイラー室で数回同僚と共に三、四〇分間喫煙し雑談していたこと及びその頃被告会社では午前と午後に喫煙時間と称し作業の合間を見て一〇分位喫煙のための休憩を与えていたこと、したがつて原告は所定の喫煙時間を超えて職場を離れたことが認められる。
 右事実によれば右の三、四〇分の内一〇分位を超える時間は無断職場離脱であるというべきである。しかし喫煙時間の厳守は職制から度々通告してあるのに拘らず原告は性格的に職制を軽蔑しこれに従わなかつたとの事実を認むべき証拠はなく、却つて証人A原告本人及び被告会社代表者Bの供述によれば、当初喫煙時間は煙草一本を喫う五分位の時間とされていたが、その当時現実には作業の状況によつてその時間が一〇数分にも及ぶことがあつて、守られなくなつておりまた職制からもその厳守を命ぜられてはいなかつたことが認められる。
 〔中略〕
 被告会社の就業規則第五九条は懲戒に譴責、減給、出勤停止及び懲戒解雇の四種を定め、第六〇条に譴責、減給、出勤停止に処すべき事由を規定し、第六一条に懲戒解雇事由を列挙し、但し情状により減給又は出勤停止に処することがあると規定していることは当事者間に争のないところであり、この事実と成立に争のない乙第七号証(就業規則)の第六〇条、第六一条の列挙事由を対比するとき及び第六一条第一一号に前条各号に該当し情状重きものと規定していることに鑑み、労働者の非行に対する懲戒処分は情状の軽いものから重いものに順次段階に把握し、情状の悪質重大なものを懲戒解雇とする趣旨であることを看取するに難くない。
 この観点に基いて前認定の原告の行動を見ると(1)、(2)、(3)、(6)、(8)の各箇の職場離脱はそれ自体として懲戒解雇に値する程悪質重大とは考えられないところであるけれども、(8)の職場離脱は労働条件に関する職場委員会の会議の傍聴のためとはいえ職制の就業命令に従わなかつたものであるので、その以前の右職場離脱の事跡に照して使用者の服務命令に対し原告がこれを軽視する勤務不熱心を徴表したものという外はない。
 そして懲戒権の発動は社会通念に照し著しく苛酷不当と判定されない限り使用者の裁量に委ねられていると解するのが相当であるので、軽微な違反は、その発動としてなされた法律行為の無効をきたすものでないというべきである。
 してみれば、被告が原告の前記服務命令違反の悪質性に着眼し懲戒解雇の措置を採つたとすれば、その処分は多少苛酷の嫌なしとしないけれども、解雇を無効ならしめる程度の不当な懲戒権の発動と判定すべきかどうか疑問といわねばなるまい。