全 情 報

ID番号 04695
事件名 地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 大東京タクシー事件
争点
事案概要  タクシー運転手が秋期全国交通安全運動および秋期交通防止競技の準備期間に際して非協力的な独言を吐き反省を求められたにもかかわらず不穏な言葉を返したのみでこれを無視する態度をとったことにつき業務命令違反として解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
労働組合法7条1号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1959年9月12日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ヨ) 5313 
裁判結果 却下
出典 タイムズ96号52頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 証人Aの証言によると、同人はタクシー業を営む被申請人が業界の安全運転及び事故防止運動に協力すべく、上述のとおり毎日運転手に対してそのために必要な注意を徹底させるにつき特段の努力を払いつつあつた折柄、昭和三三年一〇月一七日の朝の点呼において、被申請人の専務取締役Bが申請人その他当日タクシーに乗務する運転手に対し、前日発生したCの事故を例にとつて運転の安全及び事故の防止につき運転手においてなお一層注意するよう強調するところがあつた直後に、申請人が前記のように事故は避けられないものであつて、その原因はむしろ被申請人にあるような趣旨の発言をするのを耳にしたので、事故係長としての職責上からもそれをそのままに放置するわけにはいかないと考え、殊に従来申請人には接触又は衝突等による車両の損傷及び人身傷害等その責に帰すべき事故が比較的多かつた(その明細は成立に争のない乙第一号証、右証言によつてAの作成にかかるものであることが認められる乙第五号証の一及び同じく同人若しくはその前任者であるDが申請人から聴取したところを記載して作成し又は申請人自ら作成したものであることが認められる乙第五号証の一乃至一八に示されているとおりである。)ことを思い合わせて事態を重大視し、もし申請人が本気で上記のような言辞を弄するものとすれば、厳重な忠告を与えて強く申請人の反省を促さなければならないと決意し申請人に前記発言の真意を確かめようとしたにもかかわらず、申請人は徒らに前示の如く上司に対して礼を失した不穏当な言葉を返すのみであつたばかりか、Aがそのまま出庫しようとしていた申請人に注意を与えるべく事務所へ来るよう要求したのも無視して出庫してしまつたこと、そこでAは事の顛末を被申請人の代表取締役に報告し、その結果被申請人は右のような言動に出た申請人は本来ならば懲戒解雇されるべきものであるが、本人の将来のためを慮つて特に予告手当を支給して申請人を解雇することにしたことが認められる。
 (ハ) 成立に争のない乙第二号証によれば被申請人の制定施行にかかる就業規則及び従業員懲戒規程において被申請人主張のような従業員に対する解雇又は懲戒一般及び懲戒解雇の事由に関する規定がなされていることが認められるところ、被申請人の申請人に対する解雇が右規定に照らして行われたものであることは、申請人の明らかに争わないところであり、前掲(イ)及び(ロ)において判示した諸般の事情を彼比考え合わせるときは、被申請人が申請人に前示のような言動のあつたことに鑑みてこれを解雇するに至つたのは、誠に無理からぬことであり、もとより一般社会観念上からも首肯されるところであると解すべきである。
 (五) このようにみて来ると申請人が被申請人によつて解雇されたについてはそれ相当の理由があつた上に、解雇当時までにおける申請人の組合活動が特に活発で、被申請人においてその故に申請人を嫌悪したため他の理由に藉口して申請人の解雇を決意する程のものであつたとも考えられないので、被申請人の申請人に対する解雇が労働組合法第七条第一号に違反する不当労働行為であるとする申請人の主張はその疏明がないものとして理由がないといわなければならない。