全 情 報

ID番号 04697
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 名古屋証券取引所事件
争点
事案概要  証券取引所の課員として勤務している職員が定期券代金の請求にあたって不正の申告を行ない通勤費を不正に受領していたとして懲戒解雇された事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
裁判年月日 1959年9月29日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 決定
事件番号 昭和33年 (ヨ) 594 
裁判結果 認容
出典 労働民例集10巻5号821頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 この場合懲戒権者たる被申請人は如何なる処置をも自由になし得るものではなく、同就業規則第三十七条によれば、懲戒処分の種類として、譴責、減給、資格剥奪及び解職の四種が定められており、更に「解職は訓戒により本人に改善の見込なく、又は他の所員の統制上已むを得ずと認められるとき、これを行う。」と規定されているのであるから、懲戒原因たる事由の軽重及び情状に応じて右のうち妥当な処分を選択しなければならない。就中、懲戒解雇は被懲戒者の非を責めて同人を当該職場より排除するもので、その一身上に並々ならぬ影響を及ぼすべき性質のものであることを考慮すれば、右規則の規定は単に訓示的なものと解すべきではなく、被申請人が懲戒処分として解雇を選ぶにあたつて厳格に遵守することを要求されている要件と解すべきであり、この基準に反する懲戒解雇の処分は無効と云わねばならない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 右基準に従い申請人の前示所為を考えてみると、不正行為を反覆して行つた点において、強く非難さるべきものはあるが(イ)疏明によれば、申請人は頭初余分に受領した差額の金員をつい返しそびれ、その後日数を経るにつれて益々返還し難く感ずるようになり、遂に本件行為に及んだもので、その発端は申請人の過失に始つたものと認められるのみならず、(ロ)申請人の職務に、直接に関係した行為ではないこと、(ハ)不正受領の金員が比較的少額であること、(ニ)申請人は未だ若年であり、又、従来の勤務成積乃至行状が不良であつた事実は認められないこと、(ホ)本件発覚後申請人は一段とその非を感じていること、等の諸事情を考慮する時は、申請人を本件所為につき懲戒解雇に処さなければ所員の統制上不都合を来たすものと認めることはできない。申請人に対しては、この際就業規則規定のより低次の懲戒処分を選択し、併せて厳重な訓戒を与えれば足りたものと判断される。してみると本件懲戒解雇の処分は就業規則第三十七条の規定に違背したものというべく、本件解雇の言渡は無効である。