全 情 報

ID番号 04707
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 大栄建設事件
争点
事案概要  シックナータンクの築造中の従業員の傷害事故につき労災保険の給付を行なった国が右事故を引き起した建設会社に対して求償権を行使した事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 国の求償権、示談との関係
裁判年月日 1959年12月17日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和33年 (ワ) 205 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 訟務月報6巻2号295頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-国の求償権、示談との関係〕
 原告国は、前示合計二九〇、三七六円五〇銭の保険給付をなしたことに因り、労災法第二〇条第一項の規定に基いて、右給付の最終日である昭和三一年六月二〇日、右給付価額の限度において、訴外Aが被告会社に対して有する前記権利の一部を取得するに至つたことが明らかであるが、その取得の範囲は、右権利のうち、前記物質的損害の賠償請求権二二五、二〇八円五〇銭に限られ、前認定のAの慰藉料請求権はこれに含まれぬものというべきである。けだし、慰藉料請求権は、物質的損害の賠償請求権と異なり、人格権または人格的利益の侵害に対する救済を目的とするものとして特殊の性質を有するから、一個の不法行為に基因して物質的損害と精神的損害の双方を生じた場合でも、両者は単に損害の生じる経過のみを異にする一個の賠償請求権の目的となるものと解すべきではなく、性質上それぞれの損害に対応する互いに別個の賠償請求権を発生せしめるものと観念すべきところ、前記原告給付の各労働者災害保険補償費は、障害補償費をも含めて、すべて物質的損害の補償たる性質を有するものと解されることに鑑みると、前認定の慰藉料請求権の目的たるAの精神的損害は、いまだ右保険給付によつては填補されてはいないといわねばならないからである。
 そうすると、原告は、前記Aに対する最終保険給付の日である昭和三一年六月二〇日、同人が被告会社に対して有していた前認定の二二五、二〇八円五〇銭の損害賠償請求権を取得し、その余の慰藉料請求権はこれを取得しなかつたものというべきである。