全 情 報

ID番号 04732
事件名 積立金請求事件
いわゆる事件名 神戸タクシー事件
争点
事案概要  賞与の支給日在籍制度により、支給日以前に退職したため賞与の支給を受けなかった者が右制度は労基法24条に違反するとして一定割合の賞与を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法89条1項2号
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 支給日在籍制度
裁判年月日 1989年3月27日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和63年 (ワ) 626 
裁判結果 棄却(確定)
出典 タイムズ710号177頁/労働判例553号89頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-支給日在籍制度〕
 給与体系は、それ以前の歩合給に重点を置く給与体系に対して、給料については固定給を原則とし、もって乗務員の募集を容易にし、賞与については能率給を原則としながらも、算定基準を明確にすることによってその都度労働組合ないし従業員の代表と交渉する手間を省くことを目的とするものであった。すなわち、毎月の給料については、基準内賃金として時間給を基礎とする基本給、水揚高等を基礎とする歩合給を、基準外賃金として超過労働賃金等の各種手当を支給することとし、賞与は右給料とは別に月間水揚高を基礎として算出し、これから有責又は自損事故を起こした者については事故控除をして支給賞与額を決定するものである。この他に、積立金の名称で支給されるものはなく、また、右給料(基準内賃金及び基準外賃金)から一定率の金額を控除してこれを積立てるような制度もなかった。右賞与の算定基準は、従業員の親睦団体的な組織である神睦会の同意を得たうえ過去数回にわたり変更されてきたが、昭和五九年一二月二一日から改定、実施された就業規則(乙第一、二号証)によれば、月間水揚高三八万円以上の乗務員について定額一万五〇〇〇円に、水揚高が一万円増すごとに四〇〇〇円を加算した額をその月の賞与該当額とし、一一月二一日から翌年五月二〇日までの分をその年の七月一〇日に、五月二一日から一一月二〇日までの分をその年の一二月一〇日にそれぞれ賞与として支給するが、当該支給日までに退職した者には支給しない(以下この欠格事由を「在籍者要件」という。)旨定められている。
 右の事実によれば、右の賞与として年二回支給されるものは、各人の月間水揚高をその算定基礎としているところからみて、労働の対価たる性格をも有するものであることは否定できないが、毎月の給与の一部を積立てたものではないといわざるをえない。
 〔中略〕
 〈証拠〉を総合すると、神戸市のタクシー業界においては、乗務員の不足に対処しその勤務継続を確保するために、賞与の支給につき在籍者要件を付するのが一般的慣行となっており、被告従業員らで組織するA会の同意を得て作成、変更されてきた被告の就業規則においても従来からこの旨明らかにされていて、原告らもこれを承知のうえで被告と雇用契約を締結したことが認められる。
 右の各事実に、賞与は労働の対価としての性格をも有するとしても、その支給条件を就業規則等で定めること自体違法でないこと、また、乗務員の勤務継続の確保という見地からみれば、在籍者要件を設けることもあながち不合理とはいえないことなどを併せ考慮すれば、被告における就業規則で賞与の支給について在籍者要件を付したことが労働基準法二四条に違反するということはできない。