全 情 報

ID番号 04770
事件名 不当労働行為救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 大久保製壜所事件
争点
事案概要  組合員に対する配転命令およびそれをめぐる団体交渉、説明会でのトラブルを理由とする出勤停止の懲戒処分を不当労働行為とする労委の救済命令の取消が争われた事例。
参照法条 労働組合法7条1号
労働組合法7条3号
労働基準法89条1項2号
労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1989年6月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (行ウ) 53 
裁判結果 一部棄却・却下(控訴)
出典 時報1322号146頁/労働判例542号22頁/労経速報1376号3頁
審級関係 上告審/最高二小/平 2.10.19/平成2年(行ツ)73号
評釈論文 始関正光・平成元年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊735〕418~419頁1990年10月
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕
 就業規則には、「業務上必要あるときは、従業員の転勤・出向・転籍または職場の変更を行う。」と規定されているから(一一条一項)、原告は、従業員に対して、業務上の必要に応じその裁量に基づき職場の変更である配転を命ずることができるものと解される。もっとも、配転であるからといって絶対かつ無制約のものではなく、それが不当労働行為に該当する等の特段の事情がある場合には、裁量権の行使が制約を受け、配転が許されないものとなることは、いうまでもないところである。そして、配転が不当労働行為に該当するかどうかは、企業の合理的運営の見地からする配転の必要性、人員選択の合理性と配転により当該従業員や所属する組合の被る不利益、使用者の反組合的意思の存否、程度等を総合的に考慮して判断すべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 2 右の事実を基礎として、Aらに対する懲戒処分及び始末書の提出命令が不当労働行為に該当するかどうかについて検討する。
 (一) 九・二五トラブルにおける有志代表の行為は、構内及び二階事務所において、約六時間にわたり、B次長、C課長らの管理職に対し、或いは、これらを取り囲み、執拗に説明会や団体交渉の開催を求め、抗議や罵声を浴びせるなどした上、ドアの錠を破損して大勢で二階事務所に入り、退去命令を無視して滞留したもので、行き過ぎがあり、それ自体としてみた場合には懲戒処分に値する側面のあることは否定できない。
 しかし、翻ってみると、右トラブルは、原告が、さしたる必然性もないのに(1(二)でみたように、原告自身、社運をかけた緊急かつ抜本的な改善策をいいながら、新勤務体制を最小限度の改善策であると位置づけている。)、従前と比較してかなり厳しい内容の新勤務体制を一方的に発表し、D労組の組合員を含む検査課従業員だけでなく各組長までが反対をしたにもかかわらず、十分な説明や団体交渉も開かないまま、業務命令であるとして、発表から二日を置いただけで実施に移したことに発端があるのであって、むしろ、原告自らが原因を作ったといわれてもやむを得ないものである。特に、新勤務体制は、三部勤務者については公休も有給休暇もなく七日連続の勤務となり、一部、二部勤務者については有給休暇の取得が日曜、月曜、火曜以外の曜日に制限されるというもので、労基法三九条の規定に抵触する疑いがあり、労働条件にとって重大な影響のあるものであったから、原告としては、検査課従業員に対し、進んで新勤務体制の内容やこれを実施しなければならない事情を説明し、場合によっては修正に応ずる旨の態度を示す必要があったといわなければならない。しかるに、原告は、組合に対し、「品質不良による返品が多発するに至ったので、社運をかけた緊急かつ抜本的な最小限度の改善策として、検査課における検査工程の組編成を改めたものである」とする通告書を発したのみで、自ら説明の機会を設けることをしないばかりか(右通告書も、《証拠略》から明らかなように、従来と比較して勤務の内容が厳しくなることやその対策などについては全く触れることなく、むしろ、組合がとった行動に対する非難や今後に対する警告の部分を多く含むものである。)、検査課従業員からの説明要求にも応じず、有志代表からの団体交渉の申入れを受けて開くことになった説明会についても、出席者を五名に限定すると共に、条件として設定した出席者の氏名が前日まで提示されないことを理由にその開催を拒否したのであって、右のような問題の重要性や原告が本来取るべき態度からすると、対応に誠意を欠くところがあったことは否定し得ない。
 しかも、原告は、組合や有志代表に対して右のような対応をする一方で、D労組とは、トラブルの発生前に、説明会、労使協議会を開催し、その中で、新勤務体制に無理のあることを認め、公休や三部勤務者の有給休暇については所属長の承認があれば許されるという弾力的な運用の意向を示していたのであって、このような原告の態度は、同一企業内に併存する組合間の差別的取扱いといわれても致し方のないものである。そして、このような差別的取扱いは、トラブルの発生後においても、D労組との間では新勤務体制の弾力的運用に関する覚書を交わしながら、組合に対してはこれを秘密にし、執拗に迫られて漸く発表するというところにも現れている。
 (二) 以上のほか、九・二五トラブルによって特に生産に影響があったとも認められないこと(《証拠略》中には、総務部と人事部で残業ができなかったために、原告にとって重大な業務阻害があったとの部分があるが、具体的な内容は明らかでない。)、錠の破損は一連の抗議行動の中で偶発的に生じたとみてよいもので、損害額も四五〇〇円程度に止まること(これは、《証拠略》によって認めることができる。)などを総合的に考慮すれば、Aらに対する懲戒処分及び始末書提出命令は、九・二五トラブルの直接の原因が新勤務体制を一方的に発表し実施を強行した原告にあることを棚に上げ、専らトラブル当日におけるAらの個々の行為のみを取り上げて責任を追及したもので、処分の内容がそれほど重いものではないことを考慮しても、バランスを欠き公正でないといわざるを得ない。そして、前述した組合結成前後の状況やトラブルの約二か月前に行われたA、Eらに対する配転との関連などを併せると、Aらに対する懲戒処分及び始末書提出命令は、原告の嫌悪していた組合所属のAらを不利益に扱うと共に組合の弱体化を意図したものと認めるほかなく、したがって、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当すると解するのが相当である。