全 情 報

ID番号 04902
事件名 地位保全仮処分申請事件
いわゆる事件名 井谷運輸産業(大段)事件
争点
事案概要  運輸会社が、同所所有の営業免許を受けた車両を、通常の社員である「従業員運転手」とは異なる「受け取り」という者が購入したという形式のもとで同人に専属的に使用させて運送業務に当らせ、右「受け取り」につき期間一年の契約を締結し一回更新した後に期間満了を理由に更新を拒否したことに対し、右「受け取り」の者が地位保全の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法20条
民法1条3項
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 傭車運転手
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1990年5月8日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成1年 (ヨ) 2374 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1406号3頁/労働判例565号74頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労基法の基本原則-労働者-傭車運転手〕
 1 申請人と被申請人会社との関係
 申請人が契約していた「償却」制度とは、被申請人会社が所有し営業免許の許可を受けた車両を、「受け取り」の者が「購入」したという形式(名義は代金完済後も会社のままであるし、現実に「受け取り」の者が当該車両を会社との契約上の仕事に使用することをやめた後に引き取った事例があったとの疎明はない。)をとり、同人に同車を専属的に使用させて運送業務にあたらせ、水揚げ金額に応じた全額歩合制の報酬から車両の購入代金や自動車税その他の経費を差し引いて支給し、自動車の燃料等の運行諸費用、点検・修理等自動車に要する経費等も同人に自己負担させるという概要のものであった。
 〔中略〕
4 「受け取り」の者と「従業員運転者」との差異
 本件契約は書面によらない口頭のものであるが、申請人本人も、通常の社員である「従業員運転者」とは異なると認識しており、申請人には「従業員運転者」のようなタイムカードによる管理はなされておらず、報酬の算出システム(「受け取り」の者は「従業員運転者」のような基本給・残業手当その他一部歩合の諸手当・賞与等の支給を受けず、退職金の制度もない。)、支払い時期・方法(当月二〇日締めの分を「従業員運転者」は当月末現金支給。「受け取り」の者は翌月一五日指定口座振込払い)、また企業内の福利厚生面(特に健康保険・厚生年金保険・雇用保険等に「受け取り」の者は加入していない。)でも「従業員運転者」と異なった扱いを受けていたことが一応認められる。
 (なお、企業内の組合にも「受け取り」の者は入れないとされ明確に区別された扱いを受けていた。)
 しかし、結局のところは「受け取り」の者と「従業員運転者」との主たる相違は報酬の算出システムにあり、ことに「受け取り」の者の側の意識としては、単に自己がその使用車両の償却費・税金・燃料その他の車に関する経費・危険を負担するかわりに全額出来高払いで「従業員運転者」よりも高額の収入が見込めるということに尽きるといえるが、現実には(特に未だ車両償却期間中である場合は)報酬面でも格段の差異はなかったことが一応認められる。
5 申請人の労働者性についての判断
 「労働者性」の判断基準は使用者との実質的使用従属関係の有無に求められるところ、以上認定の事実によれば、結局、被申請人会社は申請人を労働時間中拘束してその指揮監督下においており、申請人と被申請人会社との間には実質的な使用従属関係があったと考えるのが相当であり、申請人の労働者性は優に認められる。両者の間には労働契約関係が成立していたものというべきであって、本件契約が被申請人主張のごとき単なる請負契約とはいえない。〔解雇-解雇権の濫用〕
 (一) 本件契約は前記認定のとおり口頭によるものであり、その際申請人と被申請人会社との間で何らかの期間の定めが合意されたと認めるに足る疎明資料はない。
 (二) なお、他の「受け取り」の者で契約書上一年の期間の定めが記載された契約を締結しているものもあるが、同人らについても現実には特段の事情のない限り当然に更新されるとの運用がなされていたことが一応認められるから、仮に申請人が口頭契約の際に他の書面で契約した「受け取り」の者と期間の点でも同一の約定とする合意をしたとしても、本件契約が一年の期間の経過で当然に終了するような契約関係であったと認定するには足りない。
(前認定のとおり「受け取り」者と「従業員運転者」の差異は主として報酬の算出システムにあり、その従事する仕事内容自体は同一で臨時的性格はないこと、また前記認定によれば、「受け取り」制度の主たるうまみとして客観的に考えられるものは車両償却期間経過後の償却額分の支給額の増加分にあり、例えば申請人の「購入」した車代金一六〇万円は償却期間三年の均等分割払とされており、毎月「割賦償却費」として四万四四四四円「利息」として一万三三三三円の合計額である五万七七七七円を三六か月間報酬から控除された後にようやくこの額分一般の「従業員運転者」よりも高額の収入が見込める予定であったことから考えても、「受け取り」者がその契約締結に際して、車両償却期間さえも経過しない時点で被申請人会社から一方的に契約関係を解消されうることを前提としていたと解することは困難である。)
 (三) 結局、被申請人は本件「請負契約予告通知」において本件契約が一年の期間の経過により当然に終了するものであったことを前提としているが、その前提自体認めがたいから、本件契約を終了させる趣旨のもとにされた本件「請負契約予告通知」は、実質的には解雇の意思表示にあたると解され、その効力の判断にあたっては、その実質に鑑み解雇の法理によるべきである。
 〔中略〕
 (三) 前示のとおり本件「請負契約予告通知」の効力の判断については解雇の法理によるべきであり、解雇には正当事由が必要であるところ、右(一)(二)で認定された事実によれば被申請人が主張する理由はいずれも解雇の正当事由にはなりえないと考えられるから、本件「請負契約予告通知」は解雇権の濫用として、その余の点について判断するまでもなく無効なものというべきであり、申請人は依然として被申請人会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあるものである。