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ID番号 04977
事件名 慰藉料請求控訴事件
いわゆる事件名 日本通運事件
争点
事案概要  貨物自動車の運転助手として勤務していた者が自動車の荷物の積込み作業に従事中に自動車にひかれて死亡した事故(業務上災害)につき遺族が加害者およびその使用者を相手どって損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法715条
労働基準法84条2項
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 労災保険と損害賠償
労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 慰謝料
裁判年月日 1956年3月23日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和30年 (ネ) 1237 
裁判結果 控訴棄却
出典 高裁民集9巻2号93頁/時報78号17頁/法曹新聞107号10頁/不法行為下級民集1号35頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-労災保険と損害賠償〕
 民法による損害賠償の責任を問うに当つては、災害補償を受けた価額の限度で民法による損害賠償責任を免れしめる旨の規定が、労基法第八十四条第二項に存するのである。而して労災保険法には同様の規定がないけれども、保険給付が災害補償の代払いであることから、全く同様に解すべきであつて(労災保険法第二十条は間接にこの解釈上の一根拠となり得る)、被控訴人等において災害補償上の要件が備わり、前記の如く遺族補償費(労基法第七十九条、労災保険法第十二条第四号)及び葬祭料(労基法第八十条、労災保険法第十二条第五号)を受けたとしても、控訴人等が主張するように不法行為上損害賠償請求権を全く失うものというべきではない。
〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-慰謝料〕
 ことに本訴は精神上の苦痛に対する慰藉料のみの請求であるところ、労基法にいう災害補償は、労働者又は遺族に対しその労働力の回復又は生計維持を図るために、積極的及び消極的の財産上の損害の填補に資せんとするものであつて、(労基法第七十五条ないし第八十一条参照)、精神上の苦痛に対する慰藉までも目的とするのではないから、遺族において労災保険法による保険給付を全部受領した場合になお右慰藉料の支払を認めても、別段前記二重に損害の填補を得させるような不合理は生じないので、不法行為による損害の賠償として慰藉料の請求をすることができるものと云うべく、ただその額の算定に当り斟酌すべきことがらの一となるだけのことである。よつて労災保険給付により控訴人等の不法行為上の責任が全く消滅したという前記控訴人等の主張は採用できない。