全 情 報

ID番号 04988
事件名 保険料認定決定無効確認請求事件
いわゆる事件名 関西染織機械事件
争点
事案概要  ニトンキーヤおよび捺染機の組立および据え付け工事を行なう者が労災法にいう事業主にあたるか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法8条(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 労働者
労災補償・労災保険 / 労災保険の適用 / 使用者・事業主
裁判年月日 1959年3月25日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和29年 (行) 19 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集10巻2号358頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-使用者・事業主〕
 本件取引は講学上いわゆる製作物供給契約と称する契約の一類型と解すべきものであり(尤も、本件取引においては、需要者と原告及び原告と各製造業者との各関係において二重にかかる契約関係が成立しているものと認められる)、これが売買であるか、請負であるかは議論のわかれるところではあるが、右認定の事実によれば、本件取引は単に対価をえて既存の機械を需要者に引き渡すことを目的とするものではなく、右契約の内容並びに当事者の意思に照らすと需要者の注文に適合する機械を新たに製作し、且つこれを需要者工場内の指定場所に据え付た上試運転を了してこれを引き渡すことが契約の要素となつていたものと解せられるから、本件取引は単に財産権の移転のみを目的とする純粋の売買契約とは異り、むしろ請負的要素の強い請負と売買との混合契約と解すべく、就中、本件取引のうち、本訴の対象たる各機械の組立及び据付工事すなわち本件工事自体は、その規模ないし方法に照らし単なる物の製造及びその附随的工事とは認め難くむしろ一般の土木、建築工事に準ずべき性質をもつ請負工事というべく、そして原告はこの請負はこの請負工事を製造業者をして下請せしめ、その労働者を使用して施行せしめたものであり、しかもかかる取引が原告の業務の常態であることは原告の自認するところであるから、原告は正しく労災法第三条第一項第二号(イ)所定の「事業として工作物の建設を行い、且つ常時労働者を使用するもの」に該当するとともに、労災法第八条により原告が適用事業たる本件工事の事業主に該当するものと解するを相当とする。
 〔中略〕
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-労働者〕
 ここにいう「労働者」とは右の如き本条の法意よりして、当該適用事業の現場作業(本件工事においては機械の組立据付工事自体)に直接従事する労働者を意味するものと解せられるところ(したがつて、労災法第二十五条第二項所定の保険料の算定根拠たるべき、すべての「労働者」とはその意味を異にするものと解する)、本件工事の現場作業に従事した労働者は、延人員にしてそれぞれ十二名と十四名に過ぎないこと前記認定の如くであるが、原告はかかる機械の組立据付工事を業務の常態としていることは争いなく、且つ前掲原告代表者本人尋問の結果によれば、原告はかかる取引を主たる業務として過去十年間に年間平均一億二、三千万円に達する取引を行つていることが認められるから、これらの諸点を総合すると、原告は本件工事を事業として、そのため常態として労働者を使用するものと解するを相当とする。
 なお、これに対し原告は右の労働者はいずれも身分的に各製造業者に属するものであるから、原告の使用する労働者に当らない旨主張するが、労災法第八条が事業が数次の請負によつて行われる場合には元請負人のみを適用事業の事業主と法定しているその法意に照らすと、少くとも事業が数次の請負によつて行われる場合には、現場作業に従事するこの「労働者」が、身分的に元請負人に属すると下請負人に属するとはこれを問わないものと解すべきであり、しかも原告の業務が数次の請負によつて行われることを常態とし、且つ本件工事もまたかかる場合に該当することを後記説示のとおりであるから、これを以て右認定を左右するに足る論拠とは解し難い。
〔労災補償・労災保険-労災保険の適用-使用者・事業主〕
 原告を始め全国における原告の同業者の多くが建設業法による登録を受けていない事実が認められるが、建設業法第二条別表21が「土木建築に関する工事」の例として「機械器具設置工事」を掲記している点に照らすと、果して右の事実が疑いもなく、法的承認を受けうべき事実かどうか疑問があるのみならず、建設業法と労災法とはその立法趣旨を異にするから、原告の事業の如く、常に元請の立場に止まり、しかも現場作業を全面的に下請業者に委ねている業態の事業については、建設業法の登録の対象外と認めうる余地があるとしても、労働者の業務上の災害補償を当該事業の事業主の保険により確保しようとする労災法の建前(特に労災法第八条)に照らすと、原告の事業がかかる業態にあることはなんらその適用除外を認めうべき理由とは解し難いから、右事実の存在を以て前記認定を覆すに足る論拠とは解し難い。