全 情 報

ID番号 05021
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 南海バス事件
争点
事案概要  会社の課長、開発事業現場監督として勤務してきた管理職の地位にある労働者に対して「会社の都合上やむをえない」事由があるとしてなされた解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 已ムコトヲ得サル事由(民法628条)
裁判年月日 1958年3月31日
裁判所名 和歌山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (モ) 578 
裁判結果 認容
出典 労働民例集9巻2号144頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-已ムコトヲ得サル事由(民法628条)〕
 ひるがえつて本件解雇の事由である「会社の都合上やむを得ないとき」の具体的基準について考察すると、会社役員でもない申請人の解雇についてはもとより被申請人会社所定の就業規則に拘束されるものと解すべきところ、被申請代理人の本件解雇の事由と自認する規則第三十三条第二号の意味するところは必ずしも申請代理人主張のごとき事業の縮少等会社側に基因する事由のみに限られず、従業員側の事由に基く場合でも、それが職場の規律をみだすなど企業の運営ひいてはその存立に影響を及ぼすことが客観的に認められるかぎり、右事由に該当するものというべきである。
 またその具体的事由の認定に当つては、人事権に直接関与する部課長等、その職務内容が会社の利益代表者の立場に近ずけば近ずくほど些少な反経営者的行為も企業の円滑な運営に影響するところが多いと考えられるので比較的容易に「会社の都合上やむを得ない事由」として認められるのに対し、その職務内容乃至現実の業務活動が一般的従業員のそれに近ずけば近ずくほどその言動が企業の運営に支障を来す「やむを得ない事由」とするには慎重でなければならないのは労働法の精神からして当然である。
 (4) 本件解雇の事由の有無
 そこで本件前記(1)(2)の認定事実を綜合して(3)の基準にてらして考察すると、申請人と被申請人代表者本人との間に時に当つて感情的な行きちがいがあつたことは認められるが、それは近代の企業組織自体の欠陥からしばしば起りがちな人間関係の一波紋にすぎず、労務管理の日常的な対象でこそあれ、それ以上のものとは認めがたく、また本件の場合特に申請人に、現実に職場の規律をみだし、故なく会社に損害を与えるなど会社経営上支障を来して就業規則第三十三条第二号の事由に該当するような事実があつたものとは到底認められない。従つて本件解雇は就業規則所定の理由をみたしていないものというべく、他に解雇の事由についての主張疎明がない本件においては、その余の判断をまつまでもなく、一応無効なものと認められる。