全 情 報

ID番号 05029
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 学校法人近畿大学事件
争点
事案概要  大学の専任講師として勤務してきた者に対して酒行上悪癖があり飲酒すると学園内外を問わず他人のひんしゅくを買うような行為が多いとしてなされた解雇の効力が争われた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
民法1条3項
体系項目 休職 / 休職期間中の賃金(休職と賃金)
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1958年8月11日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和31年 (ヨ) 2429 
裁判結果 認容
出典 労働民例集9巻4号450頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔休職-休職期間中の賃金(休職と賃金)〕
 按ずるに休職処分とは、ある従業員に職務を従事させることが不能であるか、もしくは適当でないような事由が生じた場合に、その従業員に対し、従業員の地位は現存のまま保有させながら、執務のみを禁ずる処分であるから、通常はその事故が一時的であり、かつ事故の消滅によつて当然復職すべきことが予定されているものというべく、従つて被申請人主張の就業規則第二十五条所定の休職事由の一つである」「業務の都合によるとき」とあるは、右文言が通常用いられる意味に従い、被申請人大学が、学生数の変動学部科の改廃に伴い業務を縮少した場合に生じる一時的な業務上の支障の如く、大学側の業務運営上の事由による場合を指称するものと解するを相当とし、被申請人の主張の、酒行上の悪癖、学園建物の不法占拠といつたような非行、すなわち専ら一般人としても非議すべき事実が問題となる場合は、ただちにこれを以て右休職事由に該当するものということはできない。況んや被申請人主張の如く、申請人の行為を以て就業規則所定の懲戒事由すなわち飲酒の上の非行が同規則第四十一条第四号の素行不良ならびに同条第十号の同僚に対する重大な侮辱または同条第十五号の右に準ずる行為に、建物不法占拠が同条第二号の故意、過失により学園に対し損害を与えたときに各該当するものとしながら、正規の懲戒手続による懲戒処分を避け、反省のためと称し、責任追求の意図を以て休職処分に付するが如きは、懲戒処分たる停職処分の代りに休職処分を流用せんとするものであつて、両者の目的、性格の相違に照し、かつまた右懲戒事由が休職事由に該当しない点を鑑みるとき、かくの如き処置が許されないことはいうまでもない。〔解雇-解雇権の濫用〕
 (四) 以上によつて明らかな如く、申請人の酒行上の悪癖、学園建物の退去拒否は教員として決して芳しいものでないが、解雇は申請人等教員の生活に甚大な打撃を与えるものである点よりすれば、前記の如き酒行上の悪癖、建物の退去拒否を以て直ちに解雇に値するものとはいい難く、しかもすでに不問に付された過去の飲酒上の非行を持出して解雇の処置に出るが如きは、いさかさ信義の原則に違反するきらいあるを免れない。それに解雇の手続も慎重さを欠いている点を考慮するとき、本件解雇は、いわゆる権利の濫用として適法な効力を生ずるに由なきものといわなければならない。