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ID番号 05058
事件名 休業補償給付不支給決定取消請求事件
いわゆる事件名 福井労基署長事件
争点
事案概要  従業員が会社(使用者)の実施した忘年会に出席し、その終了後に交通事故にあって負傷したケースで、業務上の負傷に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法76条
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 会社行事(宴会、運動会、棟上げ式等)
裁判年月日 1982年5月28日
裁判所名 福井地
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (行ウ) 2 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集33巻3号461頁/時報1057号142頁/タイムズ471号207頁
審級関係 控訴審/05066/名古屋高金沢支/昭58. 9.21/昭和57年(行コ)3号
評釈論文 晴山一穂・判例評論293号63頁
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-会社行事(宴会、運動会、棟上げ式等)〕
 (一) 原告は、昭和五〇年八月一日以降訴外A株式会社から訴外会社に出向していた。訴外会社は、同年四月一日設立され、本件事故当時、役員として、代表取締役B、取締役訴外C、同訴外D、従業員として原告を含めて四名、他にアルバイト二名が就労していた。訴外会社の業務内容は、一般道路の線引が主なものであつた。
 (二) 訴外会社では、職員の親睦を図るため、昭和五〇年七月一二日、一三日に越前海岸で慰安会を、同年一二月五日、六日に越前海岸で忘年会を実施し、いずれも経費は訴外会社が負担した。
 (三) 前記役員らは、昭和五一年一一月ころ、前回と同様忘年会を同年一二月中に実施することを計画し、取締役C及び同Dがその具体的な計画案を作成した。この忘年会の意図は、仕事の伝達や打合せをすることではなく、飲酒、食事をして従業員の労をねぎらい、また従業員間の親睦を深めることにあつた。そのため、訴外会社は、その経費を全額負担することとし、他方従業員に対してこの忘年会に参加すべき旨の業務命令を出すようなことはなかつた。しかし、前記役員らは、参加者が少ないと親睦の意味が薄らぐと考えたので、従業員に対し、特に都合の悪い場合は格別、できるだけ参加するようにと勧め、参加者を当日出勤扱いにする旨を伝えた。
 (四) 訴外会社は、昭和五一年一二月二一日から翌二二日にかけて右計画に従い、Eホテルで忘年会を実施し、女子従業員を除く従業員及び役員全員が参加した。宴会は、同月二一日午後七時から始められた。代表取締役Bは、宴会を始めるに当つて「皆さんご苦労です。仲良くやつて下さい。」と挨拶を述べ、取締役C及び同Dがこれに続いて同趣旨のことを述べた。しかし、右役員らは、仕事の伝達や打合せをしたりはしなかつた。その後、参加者各自は、飲酒、食事をして歓談したり、歌を唄つたりして同日午後九時ころ宴会は終了し、その後は各自の自由時間になつた。
 (五) 訴外会社は、この忘年会に参加した者に対し、旅費、時間外手当を支給しなかつた。
 2 以上の認定事実によると、訴外会社が経費の全額を負担して右忘年会を実施した意図は、従業員の慰安と親睦のためであつて、現に実施中も役員らが仕事の伝達や打合せをしたこともなかつたのであるから、右忘年会は、会社一般に通常行なわれている忘年会と何ら変わりがないといわなければならない。
 原告は、右忘年会の主目的が愛社意識とチームワークを形成することにあつた旨、或いは原告が右忘年会でリーダーとしての役割を果たすよう業務命令を受けていた旨を主張しているがいずれも前記認定に照して採用することはできない。
 3 右によれば原告の右忘年会への参加は、労働者が使用者の指揮命令にもとづく支配下における勤務であつたとはいいがたく、また労働者の本来の職務及びこれと密接な関係を有する行為でもないというべきである。
 そうすると、原告が右忘年会に参加したことについて業務遂行性は認められないというべく、原告が右忘年会の終了後本件事故によつて負傷したことをもつて業務上の災害であるということはできないからこの判断のもとに原告に対する休業補償給付を不支給とした本件処分は適法である。