全 情 報

ID番号 05072
事件名 遺族補償費等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 神戸東労基署長(三輪機工)事件
争点
事案概要  会社で雑役工として就労していた労働者が出勤後会社のトイレ内で意識不明の状態で発見されその後心不全で死亡したケースにつき業務上の死亡に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1984年2月17日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和53年 (行ウ) 29 
裁判結果 棄却
出典 タイムズ525号232頁/労働判例428号38頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 (三) Aの労働条件及び本件発症当日の勤務状況について
 (1) Aの昭和五〇年一〇月から本件発症当日までの出勤状況が別表(二)記載のとおりであること及び被告の主張第2項(三)の事実(本件発症当日の勤務状況)は、当事者間に争いがない。
 (2) そして、(証拠略)を総合すれば、次の事実が認められる。
 (イ) Aは、昭和三年四月にB会社に入社し、同社第四機械課に旋盤工として勤務し、昭和三一年五月には、組長に任命された。昭和四三年四月に同社を停年で退職したのちも昭和四七年三月まで同社に嘱託として勤務し、その間は、技術指導のためアフリカザンビア国に赴いたり、安全指導員を勤めたりしていた。
 同社退職と同時にC鉄鋼所に技術指導員として勤務し、昭和四九年八月に同社を退職後、同年九月一七日、B会社の下請会社である会社に就職した。
 (ロ) 同人は、会社では、業務部サービス課倉庫係の雑役工として勤務し、主として本件倉庫において、B会社高砂工場から入荷する砕石機械の部品の分類整理、棚差し、右部品を出荷するための荷造りその他の出荷作業に一日平均三時間程度従事するほかは、伝票の整理その他の雑用に従事していた(この事実は、当事者間に争いがない。)。そして、これら入出荷にかかる部品は、重いものでは二トン位のものもあるが、重いものは、本件倉庫内に設置されているホイスト・クレーンによって荷造りをし、移動されていた。
 なお、本件倉庫における入荷品の荷受けは、一週間に一、二回程度であり、出荷業務は、毎日、通常は午後三時から終業までの間に行われていたが、繁閑があって必ずしも一定せず、勤務時間中に手待時間もあった。
 (ハ) 会社の仕事は、昭和四九年ころから不況の影響を受けて減少しており、本件発症前二、三か月の間に特に仕事の量が増加したというようなことはなかった。
 (ニ) Aの勤務時間は、午前八時三〇分から午後五時までの間、休憩四五分を除く実働七時間四五分であり、休日は毎週土曜、日曜及び祝祭日である(この事実は、当事者間に争いがない。)。
 残業は、昭和五〇年三月までは一か月二二時間程度行われていたが、それ以降は一か月一一時間程度であって、一日三〇分を超える残業は行われていない。そして、一日三〇分の残業は、親会社であるB会社の終業時刻が午後五時であることから、同社高砂工場からの出荷に合わせて毎日三〇分ずついわば、時間調整として行っているものであり、これを超える部分は、本件倉庫へ荷物を取りに来る(通常は、午後三時ころからとなっている。)運送会社の車を待っているための残業であって、その業務内容はほとんどが待機時間であった。
 休日出勤は、一か月のうち、一回程度行われているが、その業務の内容も、直接部品を受け取りに来るユーザーに出荷品の受渡しをする作業がほとんどであり、平日と同様の仕事又は平日の仕事の残務処理をするものではない。
 (ホ) なお、Aは、毎日午前八時ころに出勤して本件倉庫内の事務所内の清掃等に従事していた(同人が早朝右清掃をしていたことは、当事者間に争いがない。)。しかし、これは、几帳面な性格の同人が自発的に行っていたものであって、会社が同人に命じたものではなく、しかも、右清掃自体は、一〇分程度あれば終えることができるものである。
 (ヘ) このような会社の仕事は、Aにとっては新しい経験であったため、同人も会社入社当初は仕事にややとまどっていたが、比較的仕事覚えがよかったこともあって、約半年位で会社の仕事にも慣れており、本件発症に至るまで、特に身体の不調又は仕事に対する苦情を同僚の従業員又は上司に訴えたようなことはなかった。
 右のような事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
 (3) 以上の事実、とりわけ、Aの会社における勤務時間、職務内容及び本件発症当日の勤務内容に前記(二)で認定したAの本件発症に至るまでの健康状態を合わせ考えれば、Aの会社における勤務に基づく疲労が同人の身体状況に対し全く影響を与えなかったとはいえないものの、右勤務が同人の基礎疾病の悪化を自然的悪化に比して著しく促進させるほど過重なものであったとは考えられず、また、本件発症に至るまでの間、同人に対して業務に起因して質的又は量的に急激な精神的、肉体的負担が加わったとも認められない。
 〔中略〕
 以上述べたところによれば、Aが平常会社で従事していた作業は、その職務内容、勤務時間等からみて、重労働というようなものではなくて、むしろ軽作業であったとみるのが相当であり、人的又は物的な職場環境及び会社のAに対する労務管理についても格別瑕疵があったということはできず、結局これらに起因して同人の基礎疾病が増悪したものと認めることはできない。更に、本件発症当日である昭和五一年一月一四日の勤務についても、これが通常の労働量を著しく超過し、同人の有する基礎疾病を増悪させうるような過重なものではなかったことは明らかであり、また、当日本件発症前において、同人に対し、業務に起因して質的又は量的に急激な精神的又は肉体的な負担が加わったと認めることもできない。そして、以上の点に前述のとおり、同人には基礎疾病としての心臓疾患が存在し、心臓疾患等に基づく急性心不全は安静時においても発症することがありうるものであり、その発症を事前に予知することは困難であることをも考え合わせれば、同人の本件発症が業務遂行中に発生したというだけで、業務が本件発症の原因又は誘因であると認めることはできない。
 従って、Aの死亡と業務との間には相当因果関係があるとはいえず、同人の死亡は業務起因性を欠くというべきであるから、同人の死亡は業務上の事由に基づくものとは認められないとした本件処分は適法であり、これを違法とする原告の主張は理由がない。