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ID番号 05119
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 神戸東労基署長事件
争点
事案概要  業務上の負傷を治療中に発生した心臓神経症が業務上の疾病に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条2項(旧)
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1966年12月23日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 昭和38年 (行) 17 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働民例集17巻6号1466頁/訟務月報13巻2号214頁
審級関係 控訴審/大阪高/   .  ./昭和42年(行コ)6号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者災害補償保険法一二条二項に規定する労働者の負傷ないし疾病は、同法の趣旨および労働基準法七五条の法意に照らすと、業務上の負傷が受傷者の既存疾病を刺戟し、よつてその発病をもたらした場合においては、その既存疾病が特異なものであつたり、他に業務外の事情の競合があつても、業務上の負傷が既存疾病の発病の一原因となつており、且つその間に医学上相当程度の因果関係が認められる限り、それが唯一又は最有力の原因であるを要せず、右既存疾病の発病をも、業務上の疾病というべきである。
 ところで(証拠省略)を総合すると、心臓神経症の原因は、医学的に必ずしも解明されているものではないが、家庭ないし職場における対人関係、欲求不満或は事故などによる精神的シヨツクに基くものであること、即ち不安感や恐怖感が原因の要素となりこのような要因が欝積して、総合的に発症するものであること、低血圧症や貧血、内臓の下垂の体質を有する者、神経質者、神経衰弱症状にある者、ヒステリー性の素因を持つ者に特に発症するものであること、(証拠省略)を総合すると、原告は本件負傷後直ちにA病院で治療を受け、左小指については、末節骨開放性骨折(骨露出)のため、その第二関節から離断し、その断端を縫合し、左環指については、三ケ所程の縫合をなす手術を施したこと、原告は来院時、非常なシヨツク症状であつたことおよび治療行為を非常に恐怖していたこと、以前に心臓神経症の発症がある場合負傷などで再度同症状が誘発されうる可能性の考えられることが認められる。
 しかし(証拠省略)によると、原告は本件負傷後も引続き仕事に従事し、通院加療をなしていたこと、治療第九日目に本件心臓神経症の発症があつたこと、原告はこれより先の昭和三四年においても心臓神経症様の症状で治療を受けていることが認められ、従つて原告の身体的社会的環境において、本件負傷の外に右発症の原因が存在する可能性があること、(証拠省略)によれば、本件負傷が、本件心臓神経症発症の原因であるならば、負傷直後に発症することが予想され、仮に負傷直後に発症していたとしても、本件負傷がその原因となりうる確率は本件負傷の部位、強度などを参酌すると極めて低いことが認められ、これらの事情を併せ考えると、本件負傷と本件心臓神経症発症との間に医学上因果関係があるものと認めることができない。右認定に反する(証拠省略)は、右各証拠に照すと、本件傷害と心臓神経症の因果関係を全く否定することはできないとの意味に解するのが相当であり、従つて因果関係の存在を積極的に認定する証拠とはなし得ず、他に右主張を確証する証拠はない。