全 情 報

ID番号 05139
事件名 行政処分取消請求事件
いわゆる事件名 呉労基署長事件
争点
事案概要  農協の貯金係の女子職員が職場で片思いの顧客から刺殺された事故につき業務上に当るか否かが争われた事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法12条(旧)
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 暴行・傷害・殺害
裁判年月日 1971年12月21日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (行ウ) 35 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ274号222頁/訟務月報18巻3号406頁
審級関係 控訴審/05152/広島高/昭49. 3.27/昭和46年(行コ)13号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労働者災害補償保険法にいう業務上の事由による災害と認められるためには、労働者が労働契約に基づく使用者の従属関係にある場合において(業務遂行性)、業務を原因として生じた災害であり、しかも業務との間に相当因果関係が存する場合(業務起因性)であることを必要とする。
 そして、業務遂行中に生じた災害は業務に起因するものと推定されるが、その場合においても、第三者の暴行による災害は、他人の故意に起因するものとして一般的には業務に起因するものとはいい難く、第三者の暴行と被災者の職務の性格内容がどのように関連するかなどを考慮し、災害が明らかに業務と相当因果関係にあると認められる格別の場合に限り、その災害は業務上の事由によるものというべきである。〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-暴行・傷害・殺害〕
 本件につき、殺害行為が業務に起因すると認められる格別の事情があるかどうかについて検討する。
 (1) 亡Aの職務行為が暴行を直接誘発したという関係ではない。
 亡Aの職務内容として、店舗に不法乱入者があつた場合に退去させることも含むと考えられる。訴外Bが個人的感情を持つていたにしろ、亡Aの職務による退去強制行為が暴行誘発の一因となつているなら、業務起因性を認め得る場合があり得るが、本件においては前記の如く、亡Aの退去強制行為が暴行を誘発したとの事実は認められない。
 (2) 亡Aの職務内容が暴行を間接的に誘発しているが、それは偶然に過ぎない。
 訴外Bが亡Aを知り恋愛感情を持つに至つた契機として、同女が広南支所で販売係をしてこれに接した事実を挙げることができる。そして、右販売係の職務内容として、外来者と接することが必要であるが、しかし、接触の仕方は、世間一般の販売係と同じく事務的なものに過ぎないのであつて、その職務内容が、ことさら恋愛感情やそれに基づく反感や怨みを誘引するものであるとはいい難い。すなわち、訴外Bが恋愛感情を持つに至つたのは全く偶然であつて、亡Aの職務内容と本件災害との間には相当の因果関係がない。
  (3) 原告は、広南支所が開放的なものであり、かつ、金品を保管しているところから犯罪者や変質者に狙われ易い職場であり、亡Aが早朝ひとりで開店準備をしている間は殊にそうであつた点が、業務起因性を基礎づけることを強調する。しかし、職場の危険性が格別な場合、例えば、他からの加害がしばしば見られる職場でありながら、職務のため敢えてこれを遂行中災害に遭つたという如き場合には、その災害に対し職場の危険性が業務起因性を基礎づける(業務自体から被災したと同視し得る)ことがあるとしても本件の職場はかような場合に当るといえない。殊に本件においては、訴外Bは前記の如く金品の奪取を目的としたのではないのであるから、金品の保管のある職場であることは災害の業務起因性と関係がない。
 以上の次第で、本件災害は業務上の事由による災害ということができない。