全 情 報

ID番号 05142
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 第三者災害求償事件
争点
事案概要  第三者災害につき国の有する求償権の範囲が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法20条(旧)
民法722条
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 国の求償権、示談との関係
裁判年月日 1973年2月16日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 3111 
裁判結果 一部認容・棄却
出典 タイムズ297号332頁/訟務月報19巻10号10頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-国の求償権、示談との関係〕
 被害者の過失が、法二〇条に基づく国の被告に対する求償権の行使に及ぼす影響について考察する。
 一、まず、第三者行為災害に際し、被害者に対する第三者の賠償額が被害者の過失を斟酌して定められるべき場合、被害者が既に労災保険給付を受けているときは、当該第三者と被害者の間においては被害者の過失相殺前の損害額から右給付額を控除した差額について過失相殺がされるべきである。
 例えば被害者の過失相殺前の損害額一〇〇、既に支払われた労災保険給付額六〇、被害者の過失割合三割のとき、被害者は第三者に対し残四〇の七割に当る二八の賠償を請求しうる。
 その反面として国の第三者に対する求償権は、第三者が本来負担すべき七〇から右二八を控除した四二に限定される筋合であり、これは結局国の代位する額がその給付すべき金額について被害者の過失の割合で過失相殺された額まで減じられたのと同一の結果になる。
 二、そもそも法に定められた労働者の給付を受ける権利は業務上の災害の発生が使用者の営利活動に基づく危険を原因とするものであることから、当該労働者の損害をその営利活動により利益をあげている使用者団体に負担させるべきであるとする考慮によるものであつて、労働者に故意又は重過失があるときは別として、単なる過失がある場合にも国は給付の全部につきその補償をするよう定められている。右の理は第三者行為災害に際し被害者に過失がある場合にも同様でその過失はその災害が業務上のものであることに基づく被害者の法定の受給権に何らの消長を来たすようなものであるはずがない。しかるところ前記結論と異り、保険給付額を控除しないで過失相殺をしたのちにその額から右給付額を控除した額を第三者の被害者に対する賠償額とすることは(この場合にはその反面として国は被害者の総損害額に過失相殺した額が保険給付の額をこえる限り全額につき求償しうることとなる。)、業務上の災害であることに基づく被害者の前記法に定められた受給権を被害者の全部過失の場合に比べ名目的なものとする不合理な結果を招来する。(前記事例で被害者の過失割合が四割である場合、後者の方法によれば被害者は単に国からも給付を受けうる利益を持つにすぎず、営利活動に基づいた危険に由来する使用者の責任が考慮されないこととなり、あたかも国が第三者の責任を仮に肩代りするような観を呈する。これは被害者に過失がなく、第三者がすべての責任を負うべき場合に、後記のような考慮により定められた法二〇条の趣旨から、結果的に国が第三者の責任をその給付の限度で肩代りするようにみえるのとは異り、不合理なものと評するほかはない。)
 三、法二〇条はその一項で国が第三者行為災害において保険給付をした場合は給付価額の限度で国が被害者の第三者に対する損害賠償請求権を取得することを、その二項で第三者が同一の事由で損害賠償をした場合は国がその価額の限度で補償の義務を免れることをそれぞれ定めているけれども、これは加害者たる第三者に不当な利得を与えないことおよび被害者が損害の二重のてん補を受けないことを目的としているのであるから、以上の考慮に従えば、被害者に斟酌さるべき過失があるときは、国が先に保険給付をした場合には、第三者の賠償義務と重複して給付した配分についてのみ代位して求償しえ、また第三者が先に賠償した場合には同様にそのうち国の給付義務と重複する部分についてのみ給付義務を免れるにすぎないものと解すべきである。
 なお右の第三者が先に賠償した場合それが保険給付と重複するか否かは、保険給付が原則として療養給付は損害の全部を、休業補償はその一部を、また精神的損害については給付の対象としないというように給付の種類によつて給付の方法を変えておりその機能を異にしているのであるから、その損害の各費目につき、第三者のみが負担すべき額をこえているか否かに従つて判断すべきである。