全 情 報

ID番号 05153
事件名 損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 松原運送事件
争点
事案概要  自衛官の自動車事故(公務災害)につき補償を行なった国が加害者たる運送会社に求償権を行使した事例。
参照法条 民法422条
労働基準法79条
健康保険法67条
国家公務員共済組合法48条
体系項目 労災補償・労災保険 / 損害賠償等との関係 / 国の求償権、示談との関係
裁判年月日 1974年5月23日
裁判所名 名古屋高
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (ネ) 540 
裁判結果 棄却(確定)
出典 高裁民集27巻2号208頁/時報767号55頁/訟務月報20巻9号75頁/交通民集7巻3号633頁
審級関係 一審/名古屋地/昭48.10.19/昭和44年(ワ)856号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-損害賠償等との関係-国の求償権、示談との関係〕
 防衛庁職員給与法第二二条の規定に基づく給付は自衛官等についてその疾病または負傷の際の療養を充分ならしめることを目的としてなされるものであって、右の療養を要したことにつき損害賠償責任を負う第三者の負担軽減を目的とするものではないと解せられ、右給付によって不法行為者あるいは自動車運行供用者として損害賠償責任を有する者が終局的にその義務を免れるとすることには合理性を見出すこともできないから、右給付についても、民法第四二二条および前記労働者災害補償保険法第二〇条等の規定を類推して、給付者は給付額の限度で加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。
 〔中略〕
 同一事故によって生じた同一身体傷害を理由とする損害賠償請求権の個数を一個と考えることは、権利行使の場面においては一般に合理性を有し、かつ、権利者の通常の意思に合致するものであるが、権利移転の場面においては、必ずしも常に合理的な結果をもたらすとは限らないから、場合によって右単一性の理論に修正を施す必要があると考える。控訴人が援用する判例も権利移転の場面におけるこのような理論の修正を許さない趣旨とは解せない。
 本件についてみるに、防衛庁職員給与法第二二条による給付の制度は、負傷あるいは疾病から生ずる損害一般の填補を目的とするものでなく、治療費の負担から生ずる損害の填補のみを目的とするものであるから、第三者に対する損害賠償請求権の代位取得を考える場合にもこれに対応して、代位の前提として当該治療費の負担を理由とする損害賠償請求権が全損害に基づく損害賠償請求権から分離し、一個の独立した損害賠償請求権となって移転すると解すべきである。
 このように解すると、控訴人はAから、原判決別紙1記載の給付の都度、同人が被控訴人に対して有した本件事故による受傷を理由とする損害賠償請求権のうち、右給付によって填補されたところの治療費の負担を理由とする部分を、それぞれ一個の権利として代位取得したというべきである。そして、各取得金額は、同別紙支払金額欄記載の各金額につき後記過失相殺による減額を施した金額となる。