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ID番号 05165
事件名 裁決取消請求控訴事件
いわゆる事件名 新津労基署長事件
争点
事案概要  大工である労働者が工事中に足場から落ちて負傷した事故により生じた後遺症につき障害補償の請求がなされた事例。
参照法条 行政事件訴訟法14条
労働者災害補償保険法12条の8
労働者災害補償保険法15条
労働者災害補償保険法35条
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1975年10月31日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (行コ) 9 
裁判結果 一部取消・棄却・破棄差戻(確定)
出典 時報807号14頁/訟務月報21巻12号2540頁
審級関係 一審/新潟地/昭50. 2. 4/昭和45年(行ウ)10号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 四、また原判決は、控訴人の右予備的請求につき、右請求は本件処分の日から一年以上徒過した昭和四七年一月二五日受付の同日付訴の変更の申立書によりなされたもので、法定の出訴期間経過後の不適法なものであるとしている。
 記録によって原審における経過をみると、
 1 控訴人は、当初弁護士を訴訟代理人に選任せず、司法書士Aに訴状の作成を依頼して昭和四五年一〇月六日裁判所にこれを提出したのであるが、右訴状には「被告国、代表者労働大臣B、送達場所新潟県新津市(略)新津労働基準監督署署長C」との被告欄の記載、「被告は原告に対し新津労働基準監督署昭和四四年労第三二号裁決はこれを取消し、新たなる労働災害補償保険の給付決定を為す。」との請求の趣旨欄の記載があり、また請求の原因の欄には、「原告は新津労働基準監督署に対し労働者災害補償保険金給付の申請をしたが、数回に亘り無給付の決定がなされ、最後に再審査請求をしたのに対し、昭和四五年六月三〇日に裁決がなされ、一四級の九と判断され、金五万円の給付がされることに決定された。右裁決は同年七月八日原告に送達された。しかし右は誤謬、過失があったことに基く裁決である。原裁決を取消し新たな適正妥当の裁決を求める。」との趣旨の記載がある。
 2 控訴人は、昭和四七年一月二五日、請求の趣旨を「被告は新津労働基準監督署長がなした昭和四五年七月十七日原告に金五万円を給付する旨の決定はこれを取消す。」と変更する旨の訴の変更の申立書を提出した。
 3 控訴人は、昭和四八年二月一八日弁護士(本件控訴代理人)を訴訟代理人に選任し、同代理人において同年四月二日「原告が取消、変更を求める処分は新津労働基準監督署長が昭和四五年七月一七日した処分であり、右署長を被告とすべきところ誤って国を被告としたので、被告を右署長に変更することの許可を求める」旨の申立書を提出し、原裁判所は、昭和四八年四月六日右申立のとおり被告を変更することを許可した。
 4 右訴訟代理人は、昭和四八年五月一四日受付の請求の趣旨訂正申立書により、請求の趣旨を「被告が昭和四五年七月一五日(一七日の誤記と認められる)なした原告に災害補償給付として金五万円を支給する旨の決定を金二七万円を支給すると変更する」と訂正し、さらに昭和四八年七月三一日受付の準備書面により、予備的に被告の昭和四五年七月一七日付でなした保険給付に関する変更決定の取消の請求を追加した。
 ところで右3の被告の変更許可の決定により、新たに被告とされた被控訴人に対する訴は、出訴期間の遵守については最初の訴提起の時に提起されたものとみなされる(行政事件訴訟法第一五条第三項)のであるが、本件においては訴状の記載がいかなる処分の取消を求める趣旨か明確を欠いていたため、本件処分の取消の訴が最初から提起されていたのかあるいはその後の訴の変更によって新訴として提起されたのかが問題となる。(右1の訴状の請求の趣旨にある「新津労働基準監督署昭和四四年労第三二号裁決はこれを取消し、」との記載のうち「昭和四四年労第三二号裁決」とは、《証拠略》によって本件処分の前提となった労働保険審査会の裁決であることが認められ、また同請求の原因の記載中「金五万円の給付がされることに決定された」とある決定は、被控訴人がした本件処分であると考えられる。)しかし、控訴人としては障害等級が第一四級の九と認定されたため障害補償給付が金五万円に過ぎなかったことに不服で本件訴に及んだものであること、控訴人がその不服の対象とするであろうと考えられる行政処分としては、労働保険審査会の理由中に障害等級は第一四級の九が相当であるとの判断を示した裁決と被控訴人のした本件処分の二つがあること、右裁決と本件処分とは、本件処分が右裁決に示された判断に従ってなされたものという関係にあって、実質的には同一の処分に等しいこと、もともと右裁決は被控訴人がした障害補償給付をしないとの処分を控訴人の再審査請求を容れて取消したものであって、控訴人が右裁決の取消を求める利益はないこと、前記2の訴の変更の申立書の提出及び同3の被告の変更の許可申立書の提出によって、被控訴人がした本件処分の取消を求める趣旨であることが明確にされたこと、控訴人もその訴状の作成を依頼した司法書士も、行政事件訴訟手続についての知識に乏しいことがうかがえること、以上の諸点を勘案すると、訴状では本件処分の取消を求める趣旨が明確といえなかったが、前記2の訴の変更の申立書と題する書面によってこれを補正し、その趣旨が明確にされたにすぎないと解することができないわけではなく、また訴状によって求めていたのが前記労働保険審査会の裁決の取消であったとしても、実質的にはこれと同一の処分に等しい本件処分の取消を求める請求の出訴期間の遵守については、その請求が訴の変更によってなされたものであるとしても、同一の請求とみて最初の訴状提出の時によって算定するのが相当である。
 そして本件訴状が本件処分の時から三か月以内に提出されたことは明らかであるから、結局本件予備的請求について出訴期間の遵守に欠けるところはなかったものというべきであり、この点についての原判決の判断は不当というほかない。