全 情 報

ID番号 05179
事件名 療養補償等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 京都上労基署長事件
争点
事案概要  ゴルフ場のキヤデイとして勤務していた者が脚の半月板摘出手術を受けて退院した後、バツグ係として職場復帰しその後また脚の病気が悪化したことにつき、それが業務上の事由にあたるか否かが争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法1条
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1977年9月16日
裁判所名 京都地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (行ウ) 6 
裁判結果 棄却
出典 訟務月報23巻9号1608頁/労働判例288号71頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原告が当初A病院B医師の手術を受けた時の半月板損傷と変形性膝関節症はその前年原告がゴルフ場で辷って膝を打った時の傷が軽傷で仕事を続けられる程度であったこと、この疾病の性質からして業務上というより原告の素因が大きな比重を占めていたと考えられるので労働災害とはいえず、かつバッグ係として復職後に生じた疾病は、(証拠略)によって認められるように原告がB医師より半月板摘出後は無理な労働特に長く歩く職業はいけないといわれているに拘らず敢えてこれを行ったため生じ、B医師の予測したとおりの症状を来たしたもので、それはバッグ係という仕事に従事したため生じたものという事実は否定できないがもとの疾病とその手術の延長上に生じたものであるからこれを以て労働災害とみることはできない。労働基準法七五条一項の業務上の疾病とはその疾病と業務との間に相当因果関係のあることを要し労働基準法七五条二項を受けた同法施行規則三五条は業務上の疾病の例示として一号から三六号までの疾病を掲げ、その三八号に於て「その他業務に起因することの明らかな疾病」としているが、本件の場合は右の三八号に該当するとはいえないからである。
 この点につき原告は、労働者が業務に起因して疾病を被りその治癒後業務に従事して再発増悪した場合、第一次疾病に業務起因性がなくても第二次疾病に業務起因性があればそれを以て業務上疾病とすることに支障はないとして原告と訴外会社間の大津地裁判決を援用しているが第一次疾病に業務起因性がないこと前記説明のとおりであり、大津地裁の判決は訴外会社が原告にバッグ係として仕事をさせた責任の一部を肯定しているがそのことは労災との関係とは別であるという趣旨のことをいっている(同判決理由二の(一)の後段)ので当裁判所の右の判断の妨げにはならない。
 又(証拠略)によって認められる労働科学研究所が行ったキャディの健康調査によると、キャディは手動又は電動のカートを押してゴルファーについて廻る労働のため腰痛、膝痛を訴えるものが比較的多く、これに労災認定をせよという要求のあることが認められるが労災というのはその労働によって生じた特別の疾病を一般の疾病と区別して救済せんとする制度であるからその労働と疾病との間に相当因果関係がなければならないのでありキャディの業務に従事せば通常膝の疾病を生じそこに相当因果関係があるとみることは相当でない。従って原告の症状は労働基準法施行規則三五条三八号にいう業務に起因することの明らかな疾病とは認められず、被告が原告の疾病は業務に起因しないとして休業補償給付および療養補償給付を支給しないとした処分は相当であって、これを取消すべき理由はない。